・作品概要
※ブログで執筆する都合上、一般的なシナリオのルールとは少し違う書き方をしています。
【シナリオ用語】
N=ナレーション
М=モノローグ(心の声)
同=同じ場所
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〇 健司と芽衣のマンション・部屋
・健司が卓球の試合の動画を観ている。
芽衣「また北京オリンピック観てんの? ほんとよく飽きないよね」
健司「飽きるわけないでしょ。オリンピックの決勝戦で中ペン対決なんて、こんな奇跡的な試合はなかなかないよ。何回観ても興奮するね」
芽衣「ふーん、そうなんだ」
健司「ていうかね、ただ観てるだけじゃなくて勉強のために観てるんだよ。何回も繰り返し観て、打ち方とか戦術を自分のものにするためにね」
芽衣「刷り込んでるんだ」
健司「そういうこと」
芽衣「まあ、勉強熱心なのはいいことだけど」
健司「おお、今のドライブ観た? すげぇ威力」
芽衣「よくそんな初めて観た人のリアクションができるね」
健司「それだけ凄いってことだよ」
芽衣「はいはい。じゃあ私、サイン会行ってくるから」
健司「うん。行ってらっしゃい」
芽衣「2時に体育館前で待ち合わせだからね」
健司「はーい」
・芽衣、部屋を出ていく。
・部屋の中から健司の声が聞こえてくる。
健司の声「うおぉ、なに今のバックハンド!? すげぇ~!」
〇 サイン会の会場
・主婦料理ブロガーのまり子(33)が著書にサインをしている。
・芽衣、サインを待つ行列に並んでいる。まり子の本を大事そうに持っている。
芽衣「(感激して)ああ、本物のまり子さま」
ファン「いつもブログ読んでます!」
まり子「(握手をしながら笑顔で)ありがとうございます」
・芽衣の番が来て、本を差し出す。
芽衣「(緊張しながら)あ、あの、いつも参考にさせてもらってます」
まり子「ありがとうございます」
芽衣「特にサンドイッチシリーズが好きです」
まり子「ありがとうございます。私もサンドイッチ好きなんで、あのシリーズがやってて一番楽しんです。明日また新しいサンドイッチのレシピをアップするんで見てくださいね」
芽衣「はい。楽しみにしてます!」
・芽衣、本を受け取り、握手をする。
・サイン本を抱きしめ、幸せそうな表情を浮かべる。
タイトル『卓飯 ~テーブルでは卓球と旨い飯を~』
第6ゲーム 『卓球観戦のお供にステーキサンド』
軽快なラリー音が響く。
〇 練馬区の体育館・ロビー
・健司がベンチに座っている。
・芽衣が入って来る。
芽衣「ごめん、お待たせ」
健司「俺もいま来たとこ」
・健司と芽衣、券売機でチケットを購入し、受け付けに提出する。
〇 同・中
・おじさん、おばさん、高校生などがバドミントンの練習をしている。
・体育館の隅に卓球台が4台置いてある。
健司のN「街の体育館の良さはなんと言ってもその値段だ。2、3時間やっても2人で数百円で済む」
・健司と芽衣、練習を始める。
健司「(肩を回しながら)今日はなんだか調子が良いような気がする」
・健司、バック対バックで数回打ち合ったあと、回り込んで全力でフォアドライブを打つ。
健司「でりゃ!」
〇 同・ロビー
・健司と芽衣、ベンチに座って休憩している。2人ともスポーツドリンクを飲んでいる。
健司「いててて、腰が……」
芽衣「今日は無茶な動きが多かったね。強引に回り込んだり飛びついたり。そりゃ腰も痛めるって」
健司「なんでだろ。あんなに毎日トップ選手の動画観て研究してるのに、ぜんぜんイメージ通りいかないよ」
芽衣「そりゃそうでしょ」
健司「え? なんで?」
芽衣「レベルが違い過ぎるんだよ」
健司「……」
芽衣「ただ楽しむだけだったらいいけど、本気で自分のプレーの参考にするんならもっと適当な選手を選ばなきゃ。中国のトップ選手と健ちゃんはさ、基礎技術、卓球センス、使っている用具、体格、すべてが違うでしょ。つまり健ちゃんは何もかも劣ってるわけだよ」
健司「何もかも劣ってる……」
芽衣「だから自分と同じような条件の人を参考にしなきゃ。ヒントはそういうところに隠されてると思うよ」
健司「……まあ、言われてみればそうかもね。中国代表みたいな超人的なプレーはどう逆立ちしたって無理だもんね」
芽衣「私だって料理作りの参考にするのは超一流シェフとかじゃなくて、もっと自分に近い人だしね。お料理ブロガーとか」
健司「お料理ブロガー? 料理のレシピをブログに書いてる人?」
芽衣「うん。今日のサイン会も最近ファンになったお料理ブロガーさんのサイン会だし」
健司「そうなの? てっきり有名な料理人のサイン会かと思ってたよ」
芽衣「ううん。普通の主婦のまり子さんって人。自宅で誰でも簡単にできるアイデア料理のレシピをブログに書いてたらいつの間にか人気が出て、ブログを本にして出版するまでになったの」
健司「へえ、凄いね」
芽衣「私も高級フレンチの本とか読むけど、それはあくまで楽しみとしてだから。日々の献立の参考にするのは主婦ブロガーのアイデア料理とかなんだよ。たがら健ちゃんも、超一流選手じゃなくて、もっと身近な人を参考にしたほうがいいと思うよ」
健司「なるほどぉ。戦っているフィールドが違いすぎると実はあんまり参考にならないってことだね。俺に必要な技術や戦術はもっと近いところにいるプレーヤーから学ぶべきなんだね」
芽衣「もちろん世界最高峰プレーヤーの試合を観て気分を盛り上げて練習するのも効果的だとは思うよ。でも実践するのは難しいから」
・健司、スポーツドリンクを飲み干す。
健司「よしっ」
・立ち上がる健司。
・芽衣も勢いよく立ち上がる。
芽衣「あと1時間くらいやってく?」
健司「いや、腰が痛いから今日は終わり」
芽衣「……」
〇 健司と芽衣のマンション・玄関先(数日後)
健司「じゃあ、行ってきます」
芽衣「はいこれ、お昼に食べて」
・芽衣、ランチバッグを差し出す。
健司「お弁当?」
芽衣「まあ、そんなとこ」
健司「ありがと」
〇 杉並区の体育館・表
・立て看板に「杉並区オープン卓球大会」の文字。
健司のN「日曜日は芽衣とどこかに練習に行く日だけど、今日は芽衣が地元から遊びに来た友人と会うということなので、俺は勉強のために身近な人達の試合を観戦しようと思ってやって来た」
・健司、体育館へ入って2階へ上がる。
・通路からフロアを眺めて、
健司「お、やってるやってる」
・小学生からベテランプレーヤーまで、様々な世代の選手が試合を行っている。
・健司、椅子に座る。
健司「しかしいろんな人がいるねぇ。ペン選手も何人もいるじゃない。嬉しくなっちゃうね」
・試合をしているのは日ペンの選手ばかり。
健司「中ペンの選手がいないなぁ」
・中ペンの高校生を発見。
健司「あ、いた。バックはやっぱり裏面打法か。今どきだねぇ」
・レシーブ時の姿勢が極端に低い選手がいる(顔がほとんど台の下に隠れている)。
健司「あの人、めちゃくちゃ低い姿勢で構えてるな。トップ選手でもたまにいるけど、あれは低過ぎるでしょ……」
・ペンでカットをしているベテランプレーヤー(60代)がいる。
健司「おお!? あれは、ペンカットマン! まさか今もいるなんて……初めて見た。なんか感動するなぁ」
・ペンカットマンのおじさん、カットからのスマッシュを見事に決める。
・健司、感動のあまり言葉が出ない。
・ × × ×
・健司がトイレから出て来る。
健司「さて、腹も減ってきたし、お昼にするかな」
・席に戻り、ランチバッグからサンドイッチケースを取り出す。
・ケースの蓋を開けると、厚切りのステーキサンドが入っている。
健司「おお。こりゃ凄い」
・ランチバッグから飲み物を取り出す。出てきたのはノンアルコールビール。
健司「試合会場でビールを飲むわけにはいかないからノンアルコールビールか。なるほどね。これならステーキサンドにも合いそうだな」
・周りを見て、
健司「ノンアルコールとはいえ人目が気になるね」
・隅っこの席へ移動する(近くには誰もいない)。
健司「では、いただきます」
・健司、ステーキサンドを食べる。
健司のM「うまいっ。ソースが染み込んだボリューム満点のステーキ。そこから溢れる肉汁。マスタードと黒こしょうの風味が絶妙に肉の旨さを引き立てている。表面をカリカリに焼き上げたパンとステーキの相性もバツグンだ」
・ノンアルコールビールを飲む。
健司「くぅ~、たまらん。これぞまさに究極の卓球観戦グルメセット」
・ステーキサンドにかぶりつく。
・あっという間に食べ終わる。
健司「ふぅ。旨かった」
・健司、スマートフォンを取り出す。「料理ブログ まり子」と入力して検索すると、まり子の料理ブログ『まり子の家ごはん日記』が出てくる。
・ブログにアクセスする。トップページにフライパンを持って満面の笑みを浮かべるまり子の写真。
・最新のページを開くと、ステーキサンドの作り方の記事。
健司「なるほど、これか」
・アジフライサンドのページを開く。
健司「これも旨そうだなぁ。今度芽衣に作ってもらおう」
・フロアに目をやる健司。
健司「しかし地域のちょっとしたオープン大会つっても、東京はレベルが高いねぇ。俺が優勝する日なんて来るのかね、まったく」
・独特な打ち方をする日ペン選手を見つける。
健司「あの人、極端にラケットのヘッドが下がってるな。フォアを打つ時もずっと下がったままだし。打ちにくくないのかな? 一旦下げたヘッドを回しながら打つならわかるけど、ずっと不自然に下がったままで振ってる……メリットがわからん」
・変わった動きをしている、おじさんペン選手を発見する。
健司「また妙な卓球をしてる人がいるな」
・おじさん選手、わざと打球点を床すれすれまで落とし、台の下で変化をつけてロビング気味に返す。
・相手コートにバウンド後、極端に軌道が変わり、スマッシュをしようとした相手選手は空振りをする。
健司「究極にいやらしい卓球だな……ぜったい対戦したくないタイプだよ」
・おじさん選手の変化球をまたしても空振りし、相手選手が頭をかきむしって悔しがっている。
健司「トッププレーヤーの試合も面白いけど、こういう一般プレーヤーの大会も卓球選手の見本市みたいで面白いね」
健司のM「こんな楽しみ方があったとは盲点だった。うーん、実に楽しい」
・ × × ×
健司のN「俺はその日以来、一般選手が参加するオープン大会の面白さにハマり、時間を見つけては勉強も兼ねて観戦しに行くようになった。――――で、どうなったかというと」
〇 とある卓球場
・健司と芽衣が練習をしている。
・ × × ×
・変なフォームでドライブを打つ健司。
芽衣「また変なフォームになってるよ」
・打球点を落とし、台の下で変化をつけて返すが失敗する。
芽衣「それやめなって」
・独特なモーションでサービスを出すが失敗する。
芽衣「……」
・ × × ×
芽衣「一般選手を参考にするのはいいけど、クセが強い人の影響を受けないように気をつけないとだね……」
健司「……だね」
健司のN「ある大会で見たおじさん選手に影響されて裏面に貼った一枚ラバーも、何の意味もなかったことは言うまでもない」
(了)
【関連】
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このシリーズ好きです。
これからも楽しみにしてます!
ラケットマンさん
楽しみにしていただき、嬉しい限りです。
書くのに時間がかかるシリーズですが、これからもコツコツ書いていきたいと思います 笑
ナルコさんの卓球観が垣間見れるので、
このシリーズは好きです
しんこうしんこうさん
いつもありがとうございますっ。
マニアックになりすぎないように気をつけながらも、さじ加減が難しいです 笑
「参考にする相手を間違える」も(個人的)卓球あるあるですよね。僕も卓球始めて間もない頃にワルドナー、メイス、水谷、クレアンガのスーパープレー集を見まくった結果面白いことになりましたし。
Kさん
どうしても憧れがあるから真似ちゃいますよね。
その4人をミックスした卓球は最強の個性派だったんでしょうね 笑
私も学生時代はスタープレーヤーの試合を繰り返し見まくってましたが、今の学生たちは動画がありすぎてどれを参考にするか迷いそうですねw
でも羨ましい環境です。
フェイクまみれのサーブで崩して3球目ドーン、ダメならロビングで粘ってクレアンガ式バックドライブドーン、たまにメイス式ロングチキータドーン、みたいなスタイルでしたね。中学一年生なんで安定感はお察しですが。
Kさん
文章で読むとめちゃくちゃ強そうですね 笑
そのスタイルを極めて安定感が増せばトップレベルでも通用しそうですしね。
そこに許昕のフットワークを足せば完璧です。
トップ選手の試合はあまり参考にならないですね笑
かといって一般の選手の試合を見ても何がすごいのか分からないです泣
このシリーズ大好きです!最終回まで見ようと思います
シェーク裏裏野郎さん
いろんな選手の良さをいいとこ取りできる眼を養う、ということが重要なのでしょうね。まあそれがなかなかできないんですけど…笑
このシリーズを気に入ってもらえるのは何より嬉しいです(感涙)。
最終回のカタチはまったく見えていませんが、思い付くままにヨチヨチ書き続けようと思いますっ。
トップ選手の動画を見ていると、かっこよくてついつい真似したくなるんですよね。
劉国梁選手のサーブ、田崎俊雄選手のバックハンド、柳承敏選手のフットワーク、ディン・イー選手のジャンピングスマッシュ、…。
結局、何一つものになっていません。
理想が高すぎるのか。
一般レベルの選手の動画も参考にしたいのですが、ペン表の動画って少ないんですよね。
戦型にこだわらなければ、いっぱいあるんですが。
ベーゴマさん
私も劉国梁と田崎選手は真似しまくりました。神がかってる天才ぶりですけど真似しちゃいます。
そしてあれこれ真似し過ぎてどれもモノにできない(笑)
もはやあるあるなんでしょうかね。
一般人のペン表動画はほんと少ないですよね。
たまに見つけると一般人なのにスターを見つけたかのように興奮してしまいます 笑
画がリアルに浮かんできます。
それだけで大満足です。
この先の展開に期待してます。
ペンドラ直ちゃんさん
ありがとうございますー!
なるべる間を空けないようにコツコツ更新していきたいと思います。
ちょっとしたお暇潰しのお供になれば幸いです 笑