ラバーが飛んだ日


プロアマ問わず、卓球の試合にはハプニングがつきものだ。

 

私がやってしまった中で最も恥ずかしかったのは「ラバーふっ飛ばし事件」である。

当時中学生だった私は、とある試合の日、自分の第一試合が始まる少し前に、チャック(スピードグルー)をラバーとラケットに塗って乾かしていた。

すると自分の名前が呼ばれコートに向かわなければいけなくなった。まだ少し時間的に余裕があると思っていた私は慌ててラバーを貼って試合をするコートへ向かった。


私がなぜチャックを試合直前に塗っていたかというと、当時スピードグルーというのは、朝塗ると夕方ぐらいまでしか効果が持たないと言われていたので(実際のところは知らない)、効果を長引かせるために、できるだけ遅く塗るという方法を取っていたのだ。

途中でまた塗り直せばいいだけの話だが、その習慣はなぜかなかった。


試合が始まり、普通にゲームは進む。しかし、試合中盤に事件は起こった。

私のサービスに対し、相手のレシーブが高く浮いた。私がそのチャンスボールを思い切りスマッシュした次の瞬間、ラケットからラバーが剝がれてふっ飛んだ。


飛ばされたラバーは相手側のコートにぺチャリと落ちた。

私はまさかと思ったが、ラケットを見るとラバーがない!
慌ててラバーを拾って貼り付け、体重をかけてグイグイ押した。

猛烈に恥ずかしかった。みんな笑っているかもしれないが、恥ずかしさのあまり何の音も聞こえてこないという不思議。


その後試合を続けるものの、粘着性が弱く、すぐ剝がれそうになってしまう。

1点ごとにラバーを必死に押しながら何とか剝がれないようにしたが、強打をするとまた飛んでいってしまう可能性がある。もう一度あんな失態を犯してしまった日には、私は一生「ラバー飛ばし少年」として笑い者になり続けるはめになるため、強く球を打つことはできない。

私はスマッシュを封印し、コースを巧みに突いて相手を翻弄して得点を重ね、なんとか勝利した。



それから10年ほど経ち、私は大人になった。
台風が近づいていたある日、強風でカツラを飛ばされたオジさんを見た。

私と一緒にいた友人はこらえきれず爆笑していたが、私は笑う気にはなれなかった。


顔を真っ赤にして恥ずかしそうにカツラを拾って頭に乗せ、もう二度と飛ばされまいとグイグイと力強く押さえ付けながら歩いて行くオジさんの姿が、あの日ラバーをふっ飛ばしてしまった時の自分の姿に重なって見えたからだ。
 

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