選手の力を引き出す『言葉力』


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『選手の力を引き出す言葉力』/高島規郎(著)

 

 


全日本チャンプに輝くこと3度。71年~83年まで7回連続世界選手権に出場し、75年には世界3位に入賞。
引退後は93、95年世界選手権の代表監督を務めるなど指導者としても活躍した『ミスターカットマン』が高島さんなのである。

高島さんと言えば、私の中では卓球界きっての理論家というイメージ。
卓球王国の連載でも毎回うならされる独自の理論を展開するお方である。

そんな高島さんが著した本書は、コーチ(ベンチコーチ)が選手の力を引き出すためにはどのような言葉を(どういう言い方で・どんなタイミングでなど)かけてあげればよいのか、について書かれた本である。

コーチはたくさんある言葉の中から選び抜く。
それがその選手にぴたっと当てはまる。
それがうまくいった時、
選手は120%の力を発揮できるのだ。
それが言葉の魔力――言葉力である。

 

第1章~第3章まではベンチコーチが試合前・試合中・試合後にやるべきこと(テクニック)がてんこ盛りに詰まっている。

例えば、「選手を励ます言葉」について。

ベンチに戻って来た選手に対して、「足を動かせ」とか「集中して行け」などと言うコーチは多いが、そんなありきたりなアドバイスではダメなのである。

高島さんはどうするのかというと――

 では、ベンチコーチはどうやって励ますのかと言えば、それは言葉の魔力しかない。ひと言で、選手に「わあ、まいった」と思わせるような殺し文句をいかにたくさん持っているか。また、ベンチコーチはそれを試合中にものすごく考えなければいけない。作戦・戦術ももちろんだが、次に選手が帰ってきたら、どういう言葉をかけてあげようかということを一生懸命考える。
 平成17年度全日本選手権の3回戦、私は佐藤素子選手のベンチに入っていた。相手は、佐藤が苦手なカットマン・中川めぐみ選手。私は佐藤に「ユニフォームめちゃくちゃ似合うね」という言葉をかけた。その時に、それが一番良い言葉だと思って選択したものだ。佐藤はニコニコッと笑って、勝ちを意識しなくなった。 (中略) 言葉だけを聞くと、何ともたわいのない冗談なのだが、私としてはそれが最善の選択であり、ひねり出した言葉だったのである。勝負でピリピリしている選手の表情を和らげて、笑顔でコートに送り出す方法を考えた末の結論だった。

 

「ユニフォームめちゃくちゃ似合うね」

そこ褒めるんかい!

なるほど、誰もが言うようなことは選手には響かないということですな。

高島さんは、とりわけ真面目に卓球に打ち込んできたという佐藤選手には、”「今までやってきてそんなこと言われたの初めてですよ」というようなことばかりを言ってあげた”と語っている。

他にどんなことを言ったのか、気になるところである。

また、高島さんは「あえてプレースタイルと逆のことを言う」そうである。

 松下浩二選手(元全日本チャンピオン)のベンチに入った時は、私はベンチから「速攻」「速攻」と言っていた。もちろん、そこまで攻められるものではないが、そういう言葉がけをすることで、少しでもチャンスがあると攻めようという気持ちが出てくる。松下選手はカットマンだったが、「しのぎきれ」というアドバイスは一切言わなかった。
カットマンに対しては、普通は「守れ、しのぎきれ、粘れ」と言うところだろう。しかし、そんなことをコーチが言わなくても、戦型的にカット選手は粘るものだ。私は守備型の選手に対しては、プレースタイルとは逆に「攻めろ、速攻しろ」と言う。例えば、カットマンが粘って粘ってプレーしたのに相手にポイントされた場合、その時は、私は「OK!」と言う。カットマンが粘って粘って得点を取れなかったら、普通は「ダメ」と見るが、私はOKと見る。「自分は速攻で取りに行って、相手には速攻で取られるな」と。普通は逆だと思うが、その言葉がけによってうまくいくのだ。
カットマンは心理的に、粘って粘って失点した時、「こんなに粘っても得点ができなかったら勝てないかも」という気持ちになる。選手にそう思わせるのは避けたい。「粘って粘って取られてもOKなんだぞ」「取る時は速攻で取るんだぞ!」と言えば、それで調子が上がって来る。粘って粘って1点取ってもしょうがないとなると、攻撃的なプレーになってくる。

 

カットマンに対しては「速攻しろ」と言う。

では、速攻選手に対しては何て言うのかというと――

 速攻選手に対して、一般的には「あまり速攻するな」「あまりめちゃ打ちするな」とアドバイスすることが多い。でも、私は「もっと速攻しろ」と言う。「打てない球まで行け」と。滅茶苦茶かもしれないが、選手はいくら「打て」と言われたからといって、滅茶苦茶な球なんて打たない。それに「めちゃ打ちするな」と言っていると、打てる球まで打たなくなってしまうのだ。最初から最後まで「思い切って行け、行け」と言っていると、追い詰められている時でも、ここ一番で選手は自ら勝負に行ってくれるのだ。

 

「打てない球まで行け」

速攻選手にこんなムチャなアドバイスをする人は確かにいない。

だけど私はペン表速攻だったからよくわかる。
もしこの言葉を言われたら、力が抜けてバンバン打って行けそうな気がする。

一見トリッキーなアドバイスだが、見事に選手の力を引き出す絶妙な助言となっているのだ。

これがまさに「言葉力」というやつなのですな。

卓球の技術本は数あれど、具体的なコーチング術に特化した卓球本はあまりない。
ましてや本書の場合は「ベンチコーチ論」と言ってもいいほど、ベンチコーチについて徹底解説されているのだから、他に類を見ないだろうと思う。

第4章は『練習での言葉力』、第5章は『トップ選手の「高島コーチング」体験談』というメニューになっている。

 

中学生から一般まで、選手が仲間の選手のベンチコーチに入ることもあると思うが、そうした時のためにも参考になる本でだと思う(中学生が取り入れるには高度過ぎるかもしれないが)。

本書は指導者の方には本当にオススメである。

高島イズムで言葉力を磨いて、あなたの教え子の力を最大限に引き出してみてはいかがでしょうか。

悟飯たちの潜在能力を引き出してパワーアップさせたナメック星の最長老のように。

(マニアックなシメ言葉ですみません・・・)

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