『勝利のラケット (記録への挑戦)』

 

本日ご紹介するのは、『勝利のラケット (記録への挑戦)』/井山夏生(著)

テニスラケットのストリング(糸)をはるストリンガーと、卓球のラケットをつくる職人さんの仕事を追った本である。

卓球はラケットとラバーの組み合わせによって選手のプレースタイルが大きく変わるスポーツで、選手がそこにいかに気を使っているかということは知っていたが、それはテニスも同じであるということが本書を読んでよくわかった。

ラケットそのものへのこだわりはもちろんだが、最も気を使うのはストリンガーで、自分に合った最高のものにしなければ、良いプレーはできない。

第1部のテニス編に登場するのは、ストリンガー歴46年(09年当時)「日本一のストリンガー」と呼ばれる山森崇司さん。

激しくボールを打った時に、ストリングが切れることがあり、それを張り替えるために必要なのがストリンガーだ。
日本のトッププロたちが絶大な信頼を寄せているという山森さん。

選手たちは声をそろえていう。
「山森さんにはってもらうと、はり具合がよくて打ちやすいんです!」
「長いあいだストリングがゆるまないので安心するんです」

専門学校でストリングの講師もつとめる山森さん。
切れたストリングとラケットを見ただけで、そのラケットを使っている人のプレイまでいい当ててしまうという。

「切れたストリングを見ると、その人のプレイが想像できるんです。スイートスポット(ラケットのボールがよく当たる部分)にダメージが集まっていれば、その人はテニス歴が長い上級者。よこ糸がほつれていれば、ハードヒッターで逆クロスのフォアハンドが得意。それくらいは、かんたんにわかることです。たまには、『お客さんテニス歴長いですね』、『君はずいぶんハードヒッターだね!』と投げかけて、あそんでいます」

シャーロックホームズのような人ですね。かっちょいい。

テニス編では、山森さんのこれまでの職人人生の中で経験した色々なエピソードが記されており、どのエピソードも、テニスについてまったく知識のなかった私にとっては驚くことばかりであった。
(リクエストが細かいクルム伊達公子選手の話など)

 
そして、第2部の卓球編である。

卓球編に登場するのは、株式会社タマス「特注ラケット工房」のラケット職人・金井一磨さん。

「世界でたった1本のラケットを1グラム単位のオーダーで受け付けます」というのが、特注ラケット工房の仕事。
金井さんが手掛けているのは、すべて特別注文品のラケットだ。

子供のころから卓球好きで、物を作るのも大好きだった金井さんは、高校2年生の時に自分でラケットを作ったという。
ホームセンターで板を買ってきて、板を削って、磨き、ラバーを貼り、そして使ってみた。
はじめて作ったラケットの打球感は最悪で、使える代物ではなかった。

しかしその後も、試行錯誤を繰り返しながらラケットを作り続け、自作ラケットは30本を超え、大学生の時に作ったラケットが卓球専門誌の「グッズ自慢コーナー」に掲載された。

そんな金井さんの特技を知っていた卓球部の先輩が、「タマスに就職してみたら…」とアドバイス。

カットマンであった金井さんの憧れの選手は、当時日本のエースだった、カットマンの松下浩二選手。松下選手が使っていたラケットは、タマスのブランド「バタフライ」

卓球が好き、ラケット作りが好き、憧れの選手が使っているラケットがタマス社製。
金井さんは「これ以上の仕事はないのでは……」と思うようになり、大学卒業後は、迷うことなくタマスに入社したという。

まさに天職!
タマスでラケットを作るために生まれてきたと言っても過言ではない!

そんな幸せ職人の金井さんは、タマスの伝説的なラケット職人・千原悟さんに認められ、後継者として、千原さんの引退以降、「特注ラケット工房」をひとりでまかされているそうだ。

金井さんのもとには、全国のアマチュア選手や有名選手から、「こういうラケットを作って」という仕様書が届く。
「この板で」、「この形で」、「重さは」、「厚さは」、など、仕様書には細かい注文が記してあるという。

「いちばん多いオーダーは、市販品を使っている人から、自分にあった一本に仕上げてほしいというもの。注文をしてくる人は、1グラム、1ミリにこだわりをもっているわけです。オーダーラケットは市販ラケットの2~3倍の値段。それでも『最高の一本を』と、わたしのところに注文が届くわけですから、絶対に手をぬくことはできません」

金井さんのポリシーは「物理的に可能なものであれば何でも受け付ける」

「〇〇選手が金メダルを取った時と同じラケットを作って」と金井さんにお願いすれば、普通に部活動している中学生でも、金メダリストと同じラケットを手に入れることができるという。

私なら「江加良が87年に世界チャンピオンになった時のラケットを作って!」と、ムチャ振りするだろう。

まあ、それは無理でも、自分だけの世界に1つだけのラケットはほしいなあ。

オーダーしてみよっかなあ。でも高そうだなあ・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。