平野早矢香が訪ねた、雀鬼・桜井章一の「無敵の勝負論」

「卓球の鬼」と呼ばれ、輝かしい実績を残して先日引退した平野早矢香さんが、その著書を読んで感銘を受け、訪ねたという人物、それが「雀鬼」の異名を持つ桜井章一である。

2人の鬼が出会ったのはもう10年くらい前の話であるが、ちょっこし会って喋りました程度のことではなく、その後も交流は続いているようである。


(画像引用 雀鬼会オフィシャルサイトより)

桜井さんはなんと「20年間無敗のまま引退したという伝説的な雀士。

平野さんが桜井さんのもとを訪ねたのは、その勝負哲学や考え方が、卓球選手としての自分にも参考になるのではないかと考えてのことだろうと思うが、私も桜井章一という男に興味を持ち、その考え方を知りたくなったので、著書を一冊読んでみた。

それが『雀鬼流 無敵の勝負論』である。

雀鬼流 無敵の勝負論
桜井 章一
青春出版社
2004-12




強気すぎてもダメ

麻雀でも卓球でも、勝負事には「強気」「弱気」といったメンタルの部分が非常に重要になる。

桜井さんは、勝負に向いた性格は、やはり弱気よりも強気な者に軍配は上がるとした上で、大事なのは「バランス」であると語る。

 勝負に臨むにはバランスが取れていなければならない。弱気すぎるのは負けの元だが、逆に強気がすぎてもバランスが悪いという点では同様なのだ。
(中略)
いちばんバランスが取れている人間は、強気と弱気という相反するものを両方自分の中に持っている。シーソーがあって、一方が強気、もう一方が弱気の側という感じだ。常にバランスを保ちながら真ん中に立つように心がける。どちらかの側に傾きすぎた時には、身体の重心を素早く移動させて反対の側へバランスを戻すわけである。
固定観念の強い人間は、どちらかに着地してしまっていて動くことができない状態なのである。中庸の精神というのだろうか、勝負にはバランスの取れた状態が必要だ。強気も弱気も知った上でバランスを保つのがいいのである。

 麻雀とは妙なもので、負けるかもしれないと弱気で臨んだ時には負けるものだ。では、勝とうという気持ちがあれば勝てるのか。だったら楽な話なのだろうが、そんな気持ちが強すぎても負けてしまうのが麻雀なのだ。
負けると思う者はもちろん、勝ちたいという者も負ける。勝ちたい人間ばかりが集まる麻雀大会などを見てもそれはわかるだろう。だが私は勝ち続けることができた。その理由は、私には「勝ちたい」「負けるかも」という両方の気持ちともなかったからだ。その両方がない人間には一体感がある。一体感を持って勝負に臨んだ結果、私が勝ったというよりは、勝ちたい者と負けると思う者が負けていっただけなのである。


とにかく強気に「絶対に勝つ!」と意気込むのがスポーツ選手としては一般的だけれど、その気持ちが強すぎると「バランスが悪い」ということのようだ。

自分を抑える場面と、前に出ていく場面の見極めをしっかりとして、バランスよく対応することが大事だということだ。

 

そして桜井さんは、「弱気がすぎる人間は、ものごとを隠そう隠そうとしがちである」と語る(麻雀でいうとテンパイがバレないように、人に気づかれずにアガろうとする態度)。
人間が隠しごとをするのは自分に自信がない時なのだという。

 

 いいことをしている、自分の行動に自信がある。そんな時にはすべてオープンにしたくなるのが人間の習性だ。麻雀を打ってツイている時を思い返してほしい。いろんなことを隠そうとあくせくしてなどいないだろう。楽な気分で、それこそ「見たければ見れば?」くらいの気分で打っている時が絶好調なのではないだろうか。勝負でいい結果を望むなら、オープンにするくらいの気持ちを持った方がいいのだ。


「見たければ見れば?」というのを卓球に置き換えれば、「打ちたければ打てば?」ということだ。

弱気になって自分の弱点を隠そうとしたりすることもなく、バック側が自分の弱点だったとしても「バックに打ちたければどうぞ」というオープンな気分でプレーをするということ。

この気持ちがツキを呼び、絶好調に導いてくれる、ということなのではないだろうか。

人一倍メンタルが強いと言われる伊藤美誠選手なんかを見ているとそんな印象がある。

絶好調の時の伊藤選手は「ほらほら、打ってみなさいよ」的な雰囲気が漂っている。
弱点を隠そうとする弱気な態度も見られない。

そしてそのプレースタイルは、「ただただ強気」というわけでもない。
桜井さんのいうように「バランスが取れている状態」でプレーしているのが伊藤選手なのではないだろうか。

試合になるとどうしても「勝ちたい」という気持ちが先行して「強気一辺倒」になってしまいがちなところを、グッと抑えるところは抑えるという心構えが大事なのではないかと思う。

この達人の境地をなんとか目指したいものです。

 

と、このように、卓球にも応用できる考え方はないだろうかと考えながら本書を読んでみると、いろいろな発見があった。

長くなるのでそのへんはまた次の機会に書きたいと思うが、桜井さんの著書はたくさん出版されているので、気になった本を読んでみてはどうでしょうか。

ちなみに、桜井さんの『マイナー力 「負け」が「勝ち」になる生き方』という本の巻末には、平野さんとの対談が掲載されているそうなので、これも今度チェックしておこうかと思います。

 

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