美宇ママの子育て本 ――「美宇は、みう。」平野真理子(著)

 

平野美宇選手の母親・平野真理子さんの著書、さっそく読み倒しました。

 

美宇は、みう。 ―夢を育て自立を促す子育て日記

 

こちらの本は、一流卓球選手の育て方や卓球の技術本ではない。
平野選手と共に歩んできた軌跡、三姉妹の母親や卓球スクールの指導者としての奮闘、妻としての夫婦間の悩みや葛藤など、いろいろな思いを綴り倒したエッセー本である。

本書のタイトルは、平野選手が幼い頃にインタビューで「第二の愛ちゃんって言われているけどうれしい?」と聞かれ、「美宇は、みう」と答えたというエピソードから取っているとのこと。

当時5歳にしてこの強烈な自我の発露。
自分は自分であるとハッキリ主張できる5歳児はなかなかいないと思うが、こうしたしっかりした子供に育つ秘密は平野家の子育てにあるようだ。

平野家では、3姉妹が小さい頃から「自分のことは自分でする」ように教えてきたという。

平野選手がオムツを自分で取り替えていたという話は有名であるが、平野家では出かける時には3姉妹とも、オムツ、着替え、水筒などが入った小さなリュックを背負わせていたそうだ

小学校へ上がってからも、大会や合宿がある時は旅行用のトランクに自分の荷物を自分で詰めて各自で持って移動する。
そうすることで自然と責任感も芽生えるとのこと。

3姉妹には古くなったラバーも1人で貼り替えさせていたそうだが、これは試合中にラバーを傷つけてしまい、その場で貼り替えなければならないという緊急事態に備えてのこと。
ラバーの貼り替えを必ずお店の人にやってもらっていた私は読んでいて自分が恥ずかしくなってしまった。

そして日常生活でも「自分のことは自分で」が鉄則の平野家では、洗濯物をしまったり、料理を作ったりと、できることはなるべく子供にやらせるようにしている。
しかしただやらせているだけではなく、そこには子供たちが楽しく作業できるための工夫や、効率よく進められるための知恵があり、こうしたところは子育てに奮闘するママさん方に大いに参考になるだろうと思う。

また、「小さい頃から自分のことは自分で決めるチャンスを意識的に作るようにしてきた」とも語る。

瞬時の判断力が求められる卓球であるが、それを可能にするのが「たくさんの選択肢の中から最良の方法を選び取る意思決定力」だと真理子さんは言う。

例えば、図書館で借りてきたたくさんの絵本を寝る前に読み聞かせをする時に、真理子さんが2冊だけ取り出し、「どっちの絵本を読む?」と選ばせる。
また、公園に行った時は「すべり台とブランコ、どっちにする?」とたずねるなど、ほんの些細な二者択一を日常の中に意識的に取り入れていたという。

もう少し大きくなると、選択肢の幅を広げ、「何を食べたい?」「何して遊ぶ?」と、夕飯のメニューや休日の過ごし方などを決めさせるように。

ここで大事なのは、ただ選ばせるのではなく、「子どもの頭の中を整理し、考えやすい状態を手助けする」ことだという。

毎日の服選びもできるだけ子どもに任せました。季節感や着て行く場所を一緒に考えながら、最終的に選ぶのは本人です。
その際も服選びのヒントを与えて、考えやすいよう手助けします。例えば、天気予報と最高気温、最低気温を子どもたちと一緒に調べ、「今日は晴れだね。暑くなりそうだから薄着で大丈夫だね」とか「午前中は晴れるけど、午後からは雨。最低気温が低いから、帰りは寒いかもしれないね。上着を持っていこうか」というように、親がすべてを決めるのではなく、服選びの道筋を教えていき、ヒントをもとに自分で考える練習をしていきました。
その過程では驚くようなチョイスもありますけれども、そういう時は一生懸命考えた子どもの選択を否定せず、プラスアルファで何かを足したり、上はそのままでズボンやスカートだけ交換したりしながら、決して子どもが自信を失くさないよう心がけました。

こうした日常生活における工夫によって「意思決定力」を養うというわけであるが、これは卓球の指導者が子供にコーチングする際のアドバイス方法としてもそのまま応用できるのではなかろうか。

すべてをコーチが指示するのではなく、ヒントを与えながら自分で答えを導き出させることで「決断力」や「戦術力」を養えるのではないかと思う。

裏を返せば、指導者も子育てをしながら指導者としての力を養えるということであって、実に奥深きかな子育て、といったところ。

美宇ママの夢

本書では、これまであまり語られることがなかった、「障害のある子どもたちと社会をつなげる架け橋になりたい」という、真理子さんの持つ夢についても書かれている。

「美宇ママ」になる前は、大学卒業後に静岡で10年間教鞭をとっていたという真理子さん。
特別支援学校や特別支援クラスを受け持ち、そこで障害のある子供たちの日常に触れる。

そして、発達障害という障害を持つ三女の亜子さんを育てるという経験。

それらのことが1つとなり、自分なりの方法で障害のある子とない子をつなぎ、社会の見えない壁を取っ払いたいと思うようになったのだという。
そしてそれを、卓球スクールの運営を通して、少しずつ実践しているそうだ。

「卓球は経験上、障害の有無を越えて人と人とがつながることのできる絶好の手段」と語る真理子さんの運営する「平野卓球センター」には、聴覚障害の選手、発達障害の選手、精神障害の選手、合わせて10人ほど障害を持つ選手がいるという。

例えば、平野卓研ではこんな光景があります。準備運動で一から十まで数える際、初めの「一」を言い出すまでに時間がかかる子がいますが、みんなそれを黙って待ちます。
また、「一、二、三」を「イギー、イー、アーン」のように発音する子もいますが、音で意味を察することができるので、みんな気にせず体操を続けます。声を出す子も恥ずかしがるのは最初のうちだけで、すぐに大きな声で堂々と数えられるようになります。
あるいは、聴覚障害の子に練習内容を伝える時、向き合って大きな口を開け、ジェスチャーを交えながら、ゆっくりしゃべると、ちゃんと伝わります。初めのうちこそ紙を使って筆談をしたりもしましたが、結局、紙とペンはすっかり出番がなくなりました。
こうして、いろんな子がまぜこぜの環境では、「相手を察する」とか「待つ」という習慣が自然と身に付き、障害は別の世界のことでも、他人事でもなく、個性の一つだという真理にも触れます。これを多感な子どものうちに経験することがとても大切だと思います。

こうした環境の卓球スクールは全国にもほとんどないだろう。
誰もが楽しめるスポーツとしての卓球の可能性を大いに広げる場としても、今後さらに注目を集める卓球スクールとなるのではないだろうか。

デフリンピックやパラリンピックの卓球日本代表選手が平野卓球センターから現れるのも、そう遠い未来ではないだろう。

 

本書を読んでいて思ったのは、「自分に自信を持つこと」の大切さである。
中国のトップ選手を見ていていつも思うのは「自信がみなぎっている」ということ。
他の国の選手と中国選手との違いは、技術的な部分以前に、圧倒的な自信の有無にあるような気がするのである。

平野美宇選手は他の日本人選手と比べて自分に自信があり、ハートが強いという印象がある。
これは小さい頃の母親からの子育て方法に関係があると思えてならない。

確固たる自信を持った、芯がしっかりとした子供に育てるための平野家の子育て方法は、日本卓球界をさらなる高みへ上らせるための重要なヒントが隠されているのではないか。

打倒中国を果たすためには「子育て力」で対抗するべし!
なんてことを思った次第。

近い将来中国を倒すために、一家に一冊置いておいてはいかがだろうか。

しかしあれほど強い中国のこと、もうすでに各家庭で、平野家もビックリのとんでもない子育て方法で子供を徹底的に鍛え上げているのかもしれないが……。

 

8 件のコメント

  • 伊藤美誠選手もそうですが、やはりトップアスリートを育てるには独自の教育がカギになるんですね。
    結婚してませんが、参考になります 笑

    • ラケットマンさん
      普通ではない教育が普通ではない選手を生む秘訣なのかもしれませんね。
      私も結婚していませんが、参考になりました 笑

  • 正直、卓球上達のシステムでは中国に歯が立ちませんからね
    そういうのに頼るのもアリだと思います

    • しんこうしんこうさん
      そうなんですよねぇ。
      悲しいかな現実的に上達システムではまだまだ差がありますよね…。
      子育てシステムなら日本は優秀そうな気がするんで、本気で卓球協会が「幼児教育」から取り組めば、中国に対抗できる怪物がたくさん現れるかもしれません 笑

  • 平野選手の強烈な個性の裏には面白い教育があったんですね。
    勉強になります。
    中国への対抗策としての教育。期待してしまいますね。

    • すんさん
      中国のトップ選手も個性的な子育てをされてきたんだろうなと思います。そのへんは実に気になりますねぇ。
      日本は尾木ママあたりと協力して「卓球子育てシステム」を構築するといいかもしれませんね 笑

  • 自慢が多くていやになりました。
    美宇ちゃんは応援していますが、このお母さんでは気が休まらないだろうなと思いました。

    • みうファンさん
      親がメディアに出まくることにいい印象を持てないという方もいますよね。
      本人はそういうつもりではないのでしょうが。
      愛ちゃんしかり、石川選手しかり、親子関係は距離感が難しいと感じます。

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