卓飯 ~テーブルでは卓球と旨い飯を~ 第3ゲーム『目線を合わせろ! 2人だけのたこ焼きパーティー』

 

作品概要

※ブログで執筆する都合上、一般的なシナリオのルールとは少し違う書き方をしています。

【シナリオ用語】
N=ナレーション
М=モノローグ(心の声)

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〇 板橋区の体育館
健司のN「今日は板橋区にある、とある卓球教室が主催するオープン大会に、芽衣と一緒に参加している。次の試合に勝てば準決勝進出が決まり、芽衣と組んだダブルスで初めての入賞を果たすことができる。とても小さな大会ではあるが、プレーヤーとして大した実績のない僕にとって、入賞のかかった試合というのは、大一番以外のなにものでもないのである」

健司と芽衣、フロアの隅のベンチに座っている。

健司「(大きく息を吐く)」
芽衣「緊張してんの?」
健司「うん……」
芽衣「ここまで来たら結果は気にせず、全力でやるだけだよ」
健司「うん。そうなんだけどね」
芽衣「今日の健ちゃんは調子がいいんだから、思い切ってやればいいよ。ドライブもスマッシュもバシバシ決まってるし、自信持っていこうよ」
健司「そうだね。次の試合もできるだけ積極的に打ってくよ」
芽衣「(頷く)」

健司と芽衣の名前がアナウンスされる。

芽衣「(立ち上がって)いくよ、健ちゃん」
健司「(立ち上がって)よし!」

・ ×    ×    ×
健司と芽衣、コートに立っている。対戦相手は三十代後半くらいの男女ペア。
四人で向かい合い「お願いします」と頭を下げる。

審判「ラブオール」

・ ×    ×    ×

※試合シーン

健司がループドライブで作ったチャンスボールを芽衣がスマッシュ。

健司&芽衣「っしゃー!」

健司のサービスから、芽衣の3球目攻撃が決まる。

芽衣のロビングを相手選手(男性)がスマッシュで打ち抜く。

健司、ツッツキを裏面ドライブで打つがボールはネットを越えず、ゲームセット。

呆然とする健司。

スコアボード(ゲームカウント3―1)。
・ ×    ×    ×

健司と芽衣、観客席に座っている。

健司「今日は調子が良かったから裏面ドライブもいけそうな気がしたんだけどなぁ……。やっぱりダメだったか……」
芽衣「それだけは入んなかったね」
健司「前進回転に対してはうまく打てたけど、ツッツキに対しての裏面ドライブがぜんぜんダメだった……。入らないんならやめときゃいいのに、ムキになって連発して……」
芽衣「それでいいんだって。どんな技術も試合で使わないと自分のものにならないんだから。失敗してもいいからどんどん使っていくべきだよ」
健司「まあ、それはそうなんだけど」
芽衣「私たちが目指してるのはもっと大きな大会なんだからさ、こういう大会は実験の場ってことで、いろんなことを試せばいいんだよ」
健司「……うん。まあ、そうだね(弱々しい笑顔)」

×    ×    ×
閉会式が行われている。

主催者「それでは、これにて閉会とさせて頂きます。本日はありがとうございました」
拍手をする参加者一同。
主催者「え~、このあとは、本大会で設立20周年を迎えたことを記念して、お楽しみ抽選会を行いますので、皆さまぜひご参加ください」
健司「そう言えば大会概要にも書いてたね、抽選会があるって」
芽衣「うん」

×    ×    ×
抽選会が行われている。
主催者が「おめでとうございます」と、当選者に景品のラケットを渡している。

健司「すごいね、ラケットだって」
スタッフが抽選ボックスから紙を引いて、当選者の名前を読み上げる。
主催者が「おめでとうございます」と、当選者に景品のユニフォームを渡す。
健司「今度はユニフォームか。いいなぁ」
芽衣「(拝みながら)祈りましょう」
スタッフが抽選ボックスから紙を引く。健司・芽衣ペアの名前が読み上げられる。
健司「おっ、やった! 当たった!」
健司、景品を受け取りにいく。
主催者「おめでとうございます」
健司「ありがとうございます」
健司、景品を受け取る。
健司「これは?」
主催者「たこ焼き器です」

タイトル『卓飯 ~テーブルでは卓球と旨い飯を~』
第3ゲーム 『目線を合わせろ! 2人だけのたこ焼きパーティー』
軽快なラリー音が響く。

 

〇 体育館・表
健司、たこ焼き器の箱を抱えている。

健司「まさかスポンサーが地元のたこ焼き屋さんとはね」
芽衣「個人の主催だから協力者が必要なんだろうね」
健司「どうしようかね、これ」
芽衣「もちろんやるしかないでしょ、たこ焼きパーティー」
健司「うん。楽しそうだね――。ま、それはそれとして、今日はなにを食べよっか」
芽衣「たこ焼きに決まってるじゃん」
健司「え?」
芽衣「今日やろうよ、たこ焼きパーティー」
健司「さっそく!?」
芽衣「それっきゃないでしょ!」

〇 自宅の近所のスーパー
健司と芽衣が入店する。
芽衣、買い物かごを手に取る。

芽衣「(お酒コーナーを指さして)健ちゃんはビール」
健司「りょうかい」

・ ×    ×    ×
芽衣、鮮魚コーナーでタコを選んでいる。
健司、お酒コーナーで缶ビールと発泡酒を手に取り悩んでいる。

健司「芽衣はビールでいいとして。俺は、ビールにすべきか、それとも糖質70%オフの発泡酒にすべきか……」
芽衣、たこ焼きの材料を次々と買い物かごに入れていく。
健司「(険しい表情)う~ん……」
芽衣がお酒コーナーにやって来る。
芽衣「なに悩んでんの?」
健司「いや、最近ビールばっかり飲んでるから、体のことを考えて糖質オフの発泡酒にした方がいいのかなと」
芽衣「迷ったら飲みたい方を選ぶ! ということでビール」
芽衣、健司の手から缶ビールを奪って買い物かごに入れ、颯爽とレジへ向かって歩いて行く
健司「……男前だなぁ」

 

〇 健司と芽衣のマンション・部屋(夜)
芽衣、キッチンでタコを切っている。
健司、たこ焼き器に油をひいている。
芽衣、ボウルに卵と水を入れてかき混ぜる。たこ焼き粉を加えて、さらにかき混ぜる。

・ ×    ×    ×
芽衣、完成させた生地をテーブルに持っていく。

芽衣「鉄板の具合は?」
健司「ちょうど温まってきたとこ」
芽衣「では」
芽衣が生地を流し込もうとすると、
健司「あ、生地は俺が入れとくから」
芽衣「そう。じゃあお願い」
健司、生地をひとつひとつの穴に流し込んでいく。
芽衣「ちょっと! 違う違う! ひとつひとつの穴に入れるんじゃなくて、鉄板から溢れ出るギリギリくらいまでたっぷり流し込まなきゃ」
健司「そうなの?」
芽衣「俺がやるなんて言うからてっきり知ってるのかと思った」
健司「面目ない……」
芽衣、生地をたこ焼き器全体に流し込む。
タコ、天かす、紅しょうが、ネギを入れる。
芽衣「半分はチーズ入りね」
芽衣、穴の半分にチーズを入れる。

・ ×    ×    ×
芽衣、ある程度火が通ったところで生地を切り分け、端の穴から竹串でひっくり返していく。
はみ出している生地を中に押し込みながら、何度かひっくり返す。

健司「それにしても、手際がいいね」
芽衣「大学時代によくやってたから、たこ焼きパーティー」
健司「そうなんだ」
芽衣、いくつかたこ焼きの場所を入れ替える。
健司「なにやってんの?」
芽衣「市販のたこ焼き器は穴によって火力にムラがあったりするから、ちゃんと焼けてるのとそうでないのを入れ替えて焼け具合を均一にする必要があるの」
健司「(感心して)へ~」

・ ×    ×    ×
こんがりと焼き上がったたこ焼きが皿に盛り付けられている。
健司と芽衣、たこ焼きに青のり、かつおぶし、マヨネーズをかける。

芽衣、缶ビールを開けて2つのグラスに注ぐ。

芽衣「ではでは、今日もお疲れ様」
健司・芽衣「(グラスを掲げて)ラブオ~ル」
健司と芽衣、ビールを飲む。
健司「はふ~~ん」
芽衣「ぷは~~ん」

健司、熱々のたこ焼きを食べる。
健司「はふはふはふ、あふ(飲み込んで)うん、うまい」
芽衣、たこ焼きを食べる。
芽衣「う~ん、外はカリッカリ、中はトロットロ」
健司「(チーズ入りを食べて)うん、チーズ入りもいける」
芽衣「じゃあ、お次はポン酢で」
芽衣、ネギ入りのポン酢につけて食べる。そしてビールを飲む。
芽衣「(幸せそうな表情)はぁ~」
健司、ネギ入りポン酢に七味を入れ、たこ焼きをつけて食べる。
健司「さっぱりとしたポン酢にピリッとする辛味が、また何とも言えず」
健司と芽衣、ビールを飲みながら、黙々とたこ焼きを食べる。

・ ×    ×    ×
芽衣「では、第2陣を」
芽衣、生地をたこ焼き器に流し込む。
生地に火が通ってきたところで、

健司「ひっくり返すの、俺にやらせて」
芽衣「大丈夫?」
健司「さっき見てたから、楽勝」
健司、生地をひっくり返すが、なかなかうまくいかない。
健司「けっこう難しいね」
芽衣「健ちゃんは回転させるのが下手だねぇ。回転させるのがねぇ、苦手なんだよねぇ。回転がさぁ」
健司「遠回しに卓球のことを言ってない?」
芽衣「いやいや、たこ焼きのことだよ。回転をかけるのが下手だなあって」
健司「“かける”って言っちゃってるし! 完璧に卓球のこと言ってるよね!」
芽衣「まあまあ」
健司「まあまあじゃないよ」
芽衣、竹串を持って、ひっくり返すのを手伝う。

 

・ ×    ×    ×
こんがり焼き上がったたこ焼きが皿に盛られている。

芽衣「次はこれ。わさび醤油とからし醤油」
健司「お、そんな食べ方もあるの?」
健司と芽衣、わさび醤油につけて食べる。
健司「うまっ」
芽衣、2本目の缶ビールを開け、グラスに注ぐ。
健司、からし醤油につけて食べる。
健司「からし醤油もうまいねぇ(ビールを飲んで)たこ焼きってただでさえビールに合うけど、これつけるとさらに相性バツグンになるね」
芽衣、ビールをぐいっと飲んで、
芽衣「でもあれだよね、裏面ドライブだよね、課題は」
健司「なによ急に」
芽衣「本日の反省会」
健司「どうぞ」
芽衣「今日は調子が良かったにもかかわらず、裏面ドライブはダメダメだったわけじゃない」
健司「うん。普段の練習でもたまにしか入らないんだよね」
芽衣「健ちゃんの裏面ドライブの安定性が低いのはさ、目線が高いからだと思うよ」
健司「目線?」
芽衣「もっと目線を下げて打ってみなよ。そしたら安定性も増すと思うよ」
健司「なるほど、目線か」
芽衣「目線を近づけるっていう意識だと背中が丸まって体勢が崩れやすいから、腰を落として“目線をボールに合わせる”っていう意識でやったほうがいいよ」
健司「下半身を使って目線を合わせるっていうイメージだね。なるほどなるほど」
芽衣、たこ焼きをからし醤油につけて食べ、ビールを飲む。
芽衣「それってさ、たこ焼きもおんなじなんだよ」
健司「は?」
芽衣「健司ちゃんがたこ焼きをうまくひっくり返せないのもさ、目線が高いせいでたこ焼きをしっかり目で捉えられていないからなんだよ。目線をたこ焼きに合わせるイメージでやってみなよ」
健司「……」
芽衣、生地をたこ焼き器に流し込む。

・ ×    ×    ×
健司、ほどよく生地が焼けてきたところで、目線をたこ焼きに合わせてひっくり返す。

芽衣「どう?」
健司「……さっきよりやりやすい気がする」
芽衣「でしょ」

次々とたこ焼きをひっくり返していく健司。

芽衣「あはは、うまいうまい。」
健司「(素早くひっくり返す)よっ」
芽衣「練習の時もこのイメージを忘れないようにね。裏面ドライブも安定するはずだから」
健司「ほんとかよ」

・ ×    ×    ×
健司、仰向けになってお腹をさすっている。

健司「ふぅ」
芽衣「食べ過ぎちゃったんじゃない?」
健司「芽衣が次から次へと焼かせたからね。多球練習のごとく」
芽衣「でも最近ちょっと食べ過ぎなんじゃない? 卓球で動けなくなるよ」
健司「そうなったら動けないなりの卓球を目指すよ」
芽衣「なに言ってんの。ダブルスはフットワークが命なんだよ。動けなくなったらお小遣い減らすからね」
健司「そんなご無体な……」

芽衣、窓を開ける。夜空には満月が輝いている。

芽衣「で、今日のたこ焼きのお味はどうだった?」
健司「そうだねぇ、卓球ミシュラン的に言うと、3スターだね」
芽衣「星3つ! 頂きました!」

満月が3スターボールに変化し、さらにたこ焼きに変化して――

(了)

 

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8 件のコメント

  • 待ってました!!笑
    とても楽しみにしてました!ありがとうございます!
    続きを楽しみにしています!!

    • シェーク裏裏野郎さん
      ありがとうございます!
      もったいないお言葉が身にしみて、本当に励みになります(謝)
      これからもコツコツと書き綴っていきますので、何卒宜しくお願いします (^^;

    • 卓球主義さん
      ありがとうございます!
      そして鋭いですねぇ。
      計算してみてると30分枠に収まっておりません(>_<) 漫画なら余裕を持って収められそうですがww

  • 「星三つ!!」で締めるなんぞは見事です。
    たこ焼きをポン酢でたべる手もあったんですね。読んでいてよだれがでてきてしまいました。
    男前の芽衣さんとちょっと弱気だが粘着(ラバーではない)気質の健司さんのコンビが夫婦漫才(啓介、歌子をほうふつとさせる)のような軽妙な会話を展開しているので、思わず一気に読んでしまいました。2年前まで板橋に住んでいたので、卓球教室はYかなそれともIランドかなと想像してみました。

    • ペンドラ直ちゃんさん
      有難いお言葉、ありがとうございます!
      調べてみるとたこ焼きはいろいろな食べ方があり、驚きました。
      サイドメニューとしてタコの唐揚げとうどんの出汁の素を使ったスープたこ焼きを登場させる予定でしたが、長くなるのでカットしました(>_<) 卓球教室はまったくの架空ですが、そう言えばランドがあるところでしたね。 直感的にイメージがいい街として浮かんだので板橋にしましたww

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