【架空卓球本書評】『50歳から始めるオールフォア』/巻田恒義(著)

 

卓球本の中でも独自すぎる内容の本を見つけ出して解説する新企画。
第1弾で取り上げる卓球本はコチラ→『50歳から始めるオールフォア』(ララバイ書房)

第1章 オールフォアのすすめ
第2章 動く勇気
第3章 バック系技術にサヨナラする2つの方法
第4章 中高年のためのフットワーク練習法
第5章 私と膝 ~膝が壊れて復帰するまでの5年間~
第6章 死ぬほど動いた後は死ぬほどビールが旨い
最終章 拝啓 動けなくなった君へ

 

今は懐かしい「オールフォア卓球」という概念。
昔の日本卓球界では常識とされていたけれど、今では両ハンド卓球が当たり前になっているわけで、そんなご時世にオールフォア卓球を推奨しようってんだから、相当クレイジーな本である。

著者の巻田恒義(まきたつねよし)さんは、長崎県で自身が運営する卓球場で指導者をしており、長年にわたり選手を指導してきた実績を持ち、特に中高年への指導には定評のある方らしい。

「人は何歳になっても動ける」を信念に、多くの中高年を動けるプレーヤーへと生まれ変わらせてきた人だという。

本書はそんな巻田さんが、長い指導者人生で培ってきたオールフォア卓球のコツ、魅力、意義を余すところなく綴った内容となっている。

 

脱・省エネ卓球

ある程度の年齢になると「省エネ卓球」を目指しがちになるが、本書は、動かない卓球を全否定するところから始まる。

卓球選手は動けなくなってくると、ショートやブロックで振り回す戦術を多用するようになったり、裏面にラバーを貼って裏面打法に挑戦するなんて人がいますが、実にしゃらくさいですよ。そんなことではいかんのです。中高年だからこそオールフォア卓球にチャレンジするべきなんです。

私も当ブログにて、「いかに動かずに勝つか」というスタイルを追求していきたい、みたいな記事を書いたことがあるが、現役時代と違って練習量も減るし、体力的な問題もあって、動きまくるプレースタイルは年々厳しくなってくるのである。
ましてや中高年となるとなおさらであるはずなのに、なぜ著者はオールフォア卓球を勧めるのだろうか。

その理由は主に2つあって、1つは「足腰の鍛錬」だそうだ。

歳を取ると筋力が衰えて足腰が弱ってくると嘆く人がいるが、だからこそオールフォアなんですよ。オールフォアで動きまくることによって下半身、足腰が鍛えられるのです。
省エネ卓球とか後の先(ごのせん)とかやってると運動量が少なすぎて身体がなまってしまいます。
(中略)
中高年になって筋トレをしますか? しませんよね? だったら卓球をやりながら鍛えるしかないのですよ。動きまくっていれば自然と足腰の鍛錬になるってもんですよ。攻撃的な卓球もできて健康な身体も手に入る。まさに一石二鳥なのです。

より負荷をかけて足腰を鍛えるにはオールフォア卓球が最適、ということ。
しかしただ動き回ればいいというわけでもない。本書には、いかに膝に負担をかけずに激しいフットワークをするか、そのコツや練習法についても書かれているので、それをしっかりと読み込んで参考にする必要がある。

 

疲れ切った後のビール

オールフォア卓球を推奨するもう1つの理由は「練習後のビールの旨さ」である。

練習後のビールは疲れているほど美味しくなります。
「昔のように練習後のビールが旨くない」と嘆く中高年の方をよく見かけますが、若い頃は激しい練習をやったからこそ、練習後のビールが旨かったのです。動かない卓球というのは疲れません。常にオールフォア卓球を意識してプレーしていれば間違いなくヘロヘロになります。死ぬほど動いた後のビールは死ぬほど旨いのです。

大人の練習時間は短い。限られた時間の中でヘロヘロになるためにオールフォア卓球で動きまくるというのはうなずける。
しかし、お酒が飲めない人はその楽しみがないじゃないか、と私は思ってしまったが、巻田さん曰く「死ぬほど動いた後の炭酸ジュースも死ぬほど旨い」とのこと。

 

本書は、時代に逆行するトンデモ本かと思っていたが、決してそうではなかった。

最終章「拝啓 動けなくなった君へ」の中で巻田さんは、「理論上、オールフォア卓球は83歳まで可能です」と語っている。
その理論の根拠を一切示していないところがやや説得力に欠けるが、長年の経験に裏打ちされた独自理論なんだと言われれば納得せざるを得ない。
(実際、御年73歳になる巻田さんはバリバリにオールフォア卓球を実践しているという)。

本書は、マスターズで全国チャンピオンを目指そうとか、そういう中高年トッププレイヤー向けの技術本ではなく、卓球愛好家がいつまでも健康で楽しく卓球をやり続けるための指南書である。

現在50歳以上の方の中には、現役時代にオールフォア卓球をやらされていた人も多いだろう。
古き良き青春時代のプレースタイルを取り戻し、動きまくるという新たな卓球人生をこれからまた始めてみるのも良いのではないだろうか。

※ちなみに、激しいフットワークのことを例えて、「初代タイガーマスクのステップのように」とか「トムとジェリーのジェリーのように」など、巻田さん独自の表現の絶妙さに、個人的にはグッときた。

点数:87点

2 件のコメント

  • これは奇遇。自分も巻田氏の『50歳から始めるオールフォア』を入手したところです。全く素晴らしい卓球本ですね。ハリ○ト氏も「アッパレ」と言ったとか言わないとか。

    中高年向けに書かれた本書ですが意外な影響がじわじわ出始めているようです。オールフォアを始めた両親や祖父母など身近な大人を見たチビッコ達が見よう見まねでオールフォア卓球をやっているらしいのです。まだ両ハンドだのなんのを知らない子供にとって初めて見る卓球がオールフォア。イコール「卓球とはそういうもの」という感覚のようです。いわゆる刷り込みでしょうか。もしかしたら卓球界の未来に大きな変革をもたらす小さな一歩なのかも知れません。
    このことは当然巻田氏もご存知のようで、次著として『親子で楽しむオールフォア』または『みんなで動こう楽しいオールフォア』といったファミリー向け子供向けのオールフォア卓球本を構想しているとのことです。
    出版社からは「中級以上に向けたオールフォアの本を」との打診もあるようですが、「私の使命は卓球の底辺を広げること。それは他の方の役割です」と断っているそうです。

    別の動きとして「オールフォアなら日ペンだよね」と考える愛好家が増え、メーカーが需要に応えるべく新規の日本ペン.ラケットの開発、更には往年の名作ラケットの復刻を模索しているとの噂も。この流れが本格的になれば日ペンの需要に供給が追いつかず、これまで卓球のラケットなど手掛けたことのない小さな町工場にも製作が依頼され、職人達が様々な試練を乗り越えて培った技術でラケットを作り上げ、そのラケットと奇跡的な出会いをした選手が世界のタイトルを手にすることも夢では無いかも知れません?。
    その際はきっと『下町ラケット』という小説が出版され、大ベスト.セラーとなるでしょう(笑)。

    追伸:最後まで“(笑)”抜きでボケきろうと思ったのですが、最後の最後で耐えられなくなりました(笑)。

    • てぐすさん
      なんと、入手されましたか!
      私以外にこの本の存在を知っている人がいたとは、さすがですねぇ。
      いやほんとに、卓球の概念を覆される見事な内容でしたよね。
      「アッパレ」が出たのも頷けます。

      しかもチビッ子たちにも影響が出始めているだなんて!
      刷り込まれた子供たちの中からスターが生まれたら、オールフォア卓球の日本代表選手が誕生! なんてこともありえますね。
      これは楽しみだ。
      しかもしかも、次なるオールフォア本の構想まであるだなんて!
      まったく知らなかったです。
      子供向けオールフォア本はぜひ出してほしいですね。
      ちなみに巻田氏は若い頃「オールフォアで2時間動き続ける」というギネス記録を樹立したそうです。

      さらに日ペンラケットの開発、名作ラケットの復刻の噂もあるだなんて、最高じゃないですか!
      そうなるとあらゆる分野の職人さんがラケット作りに参入する可能性は大いにありますね。
      そこへ大手のIT企業が割り込んできて「AI搭載のラケットを開発しました」とかなんとか言って、泥沼なバトルに発展したりして・・。
      『下町ラケット』は期待したいところですね。
      あるいは巻田氏をモデルにしたファミリードラマ「渡る世間は両ハンドばかり」という、両ハンドばかりの卓球界を嘆くドラマが作られると面白いかもしれません(笑)

      追伸: 十分にボケ切っておられますよ。最高です(笑)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。