【卓球ショートショート ♯4】敗者審判

 

敗者審判

また1回戦で負けてしまった。
いくら東京のレベルが高いとはいえ、草の根プレーヤーの参加するちょっとしたオープン大会のレベルがこれほど高いというのは本当に勘弁してほしい。

私も以前はけっこう良い成績をおさめていたのだが、どの大会でも10年前くらいから強い選手が一気に増え始めて、今ではまったくといっていいほど勝てなくなってしまった。
いま私は、いつものように敗者審判をしているところだが、早く帰りたくてしょうがない。

2070年現在、卓球をやっていた祖父の現役時代の頃と比べると、卓球の技術は大きく進化した。
何より目覚ましい発展を遂げたのは、科学技術である。卓球マシンが超高性能になったのはもちろんだが、何と言っても驚くのは、人工知能を搭載した「AIコーチ」の誕生である。

最初に「戦型」「自分の性格」「目指すプレースタイル」「目標」などの項目を設定しておけば、日々の練習において的確なコーチングをしてくれるという非常に優秀なコーチロボットだ。
球出し機能が付いた「卓球マシン一体型」のAIコーチもいて、高いものだと300万円以上もするという。

そんなAIコーチを多くの卓球人(特にお金に余裕のある大人たち)が自分の個人コーチとして購入し、日々鍛えているものだから、ごく普通のオープン大会のレベルもグンとアップしたわけである。

私がいま敗者審判としてさばいている試合で、両選手のベンチコーチに入っているのもAIコーチだ。
AIコーチがベンチから試合を観察し、瞬時に適切な戦術を導き出し、タイムアウト時やゲーム間などにアドバイスしてくれるわけだが、あらかじめ相手選手の試合動画をAIコーチに取り込んでおくと、アドバイスの質もグンと上がるというのだから恐ろしい。

私のように安月給のサラリーマンで月3万円のお小遣い制の身には羨ましい、というより恨めしい。

などとみじめな思いに浸っていると、一方の選手の打ったボールがオーバーミスをしたので、私はもう一方の選手のほうに得点を入れた。
するとミスをした選手が私に、いまのはエッジボールではないかと言ってきた。私は「今のは入っていないと思います……」と自信なさげに言うと、こう言い返してきた。

「ワタシニハ、サイシンノビデオハンテイシステムガトウサイサレテイマス。ダカラマチガイナイノデス」

AIプレーヤーにそんなことを言われたら、人間の私にはもう何も言い返すことはできない。この選手はタマス工学研究所が開発した話題のAIプレーヤーで、名前をCP-24という。

私は自分の判定をあっさり覆し、CP-24選手に得点を入れようとしたが、もう一方の選手が黙ってはいなかった。
「フザケルナ。ボクノガゾウカイセキシステムニヨレバ、カンゼンニオーバーミスダ」

こちらはTSPサイエンステクノロジー社が開発したPINPO(ピンポ)選手である。

くそっ、なぜAI同士の意見が食い違うんだ。相手のロボットが他社製品だった場合、逆のことを主張するようにプログラミングされているのか?

両選手に詰め寄られて私があたふたしていると、CP-24選手のベンチコーチが私のところにきて、抗議に加わった。
ふとPINPO選手のベンチコーチを見ると、目から光が失われており、椅子に座ったままピクリとも動かない。バッテリーが切れてしまったようだ。

そこから散々すったもんだがあって、ようやくエッジボール問題が解決し、試合が再開した。
ホッと胸をなでおろしたのもつかの間、今度はPINPO選手が「トスガチャントアガッテイナイ。アトレイテンニセンチアゲロ」とケチをつけ、再びコーチを巻き込んでの小競り合いが始まった。

「まあまあ、皆さん落ち着いて」と止めに入った私はCP-24選手に突き飛ばされ、ハデにすっころんだ。

ったく、これだから敗者審判は嫌なのだ。
私は試合に負けるたびにいつも思う。早く審判をAI化してくれと。

 

2 件のコメント

  • おはようございます
    うーん、たしかに敗者審判メンタル的にキツイ時ありますね。
    お互い様なんでデカイ声では言えませんが…。

    その点、高野口P4会では皆さん進んで審判やってくれます。
    常連の方が進んで大会運営してくれますので、僕としてはホント感謝です。

    仕事休みの日は、極力参加者のクラブに足を運びお礼と練習に行かせてもらっているんですよ。

    • 中辻さん
      おはようございます~。
      やたらルールにうるさい人に当たったら嫌ですよね・・。
      得点を入れ間違えてキレちゃう人とかも・・
      幸い私はまだ変な人に遭遇したことはありませんがw

      大会運営を手伝ってもらったり、クラブにお礼を兼ねた練習に行ったり、楽しそうですねぇ。
      そうやって卓人同士の交流の輪が広がっていくというのは、大会運営の醍醐味と言えるかもしれませんね。

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