本日ご紹介する本は、偉関晴光さん監修の『世界最強 中国卓球の秘密』。
本ブログでは以前も偉関さんの書籍を取り上げさせてもらったが、早くも2度目のご登場である。(前回の紹介エントリーはこちら)
偉関さんは元中国代表選手で、88年ソウル五輪で中国男子初の金メダリストとなった人で、97年に日本に帰化し、41歳で全日本選手権で4度目の優勝(最年長記録)を果たしたすごいお方である。
現在は、「偉関卓球ランド」という卓球場(東京都北区)を経営しながら、日本ジュニアナショナルチームでコーチも務める指導者だ。
本書は中国卓球を知り尽くす偉関さんが、自らの経験をもとに、中国卓球の強さの秘密を余すところなく解説している本である(出版は2011年)。
私のような、普段卓球界の中枢と関わりのない人間では知ることができないような、中国卓球の思想・哲学、練習法などが満載であり、驚かされることが実に多かった。
「はじめに」で示されている、“本書を読むための8つのキーワード”。
ここに中国卓球の哲学がまとめられているのだが、ここを読むだけでもいきなり感心してしまう。
8つのうち2つだけ抜粋してみます。
スピード
時代によって、中国卓球も変化してきたし、変化していかなければ強さは維持できなかった。プレースタイルも大きく変わったし、用具も変わった。しかし、時代は変わっても変わらないものがある。それは、前陣速攻という思想だ。とにかく速い打球点で打つという基本思想は変わっていない。
スピードという言葉には、ピッチ、いわゆる打球点の「速さ」とボール自体の「速さ」、そして戦術の切り替えの「速さ」という三つの意味が含まれている。
落点
中国卓球にはコースという概念がない。あるのは「どこの場所に打つのか」という「落点(らくてん)」の意識だ。この落点にこういうボールを打ちなさい、という指示が出される。重要なのは、どんなフォームで打つのかということよりも、どの落点にどんなボールを打ち込むのかということだ。
「コースという概念がない」だって!
日本の常識とはまったく違いますな。
そして、ここから謎めく中国卓球の秘密のジャングルへと分け入っていくわけだが、その強さの核となっているのはいったい何か?
中国選手は、幼少期から言われ続ける言葉があるという。
それは「弧線」
裏ソフトでも表ソフトの選手でも中国では小さい時から「弧線を作れ」と言われる。「弧線」とは、文字通り、弧を描くようなボールの飛行曲線のことだ。中国では直線的な飛行曲線のボールを打つと注意される。
中国卓球は速攻というイメージがあるが、実は常に打球、打法、戦術に「安定」を求めている。
プレースタイルに関係なく、中国選手のすべての打球は弧線によって成り立っている。(後略)
(第2章 フォアハンド技術 23頁から抜粋)
中国の裏ソフトを使った攻撃選手は、かつての鄧亞萍のような前陣速攻型の選手を除いて、ほとんどスマッシュを打たない。それは回転を重視した粘着性のラバーを使っているため、スマッシュを打ちにくいことがひとつの理由だ。加えて、直線的なスマッシュよりも、弧線を描いたドライブを使う方が打球の安定性が高まり、失点を少なくできるという合理的な考え方があるからだ。
スマッシュを打つ場合でも、ただフラットに打つだけでなく、インパクトの瞬間に回転を与え、弧線を描くように打球することが重要だ。
この考え方は表ソフトの選手でも同じだ。直線的に打つとネットミスやオーバーミスが多くなるので、スマッシュといえども、やや回転を加えて、弧線を作るイメージで打球する。(後略)
(第2章 フォアハンド技術 31頁から抜粋)
中国選手の超攻撃的なプレースタイルからは、常に「安定」を求めていることなど想像できない。
あれほど積極的に攻めて尚、安定していることこそが中国の強さの秘密であるのだ。
では、力強い球を抜群の安定性を保ちながら打つためには、どのようにすればいいのだろうか。
本書には、中国卓球の打法についての考え方もたくさん解説されている。
≪中国卓球的神髄≫ 余分な力は入れない――
「中等力量」(チョンダンリィリァン)を心がける効率的な動きを重要視する中国卓球において、よく使われる言葉がこの「中等力量」「発死力」(ファースーリィ)だ。
「中等力量」とは、全力で打つのではなく、体をリラックスさせ、余分な力を加えずに打つという意味の言葉。反対に「発死力」とは、いわゆるムチャ打ちのことで、ただ力まかせに打つことを表す。
多くの人はチャンスボールが来た時や強く打とうとする時に、より大きな力が入り「発死力」になってしまう。しかし、人間の体は、余分な力を入れれば入れるほど、体全体の動きの効率が悪くなり、その結果、スイングの力はボールに伝わりにくくなるのだ。
全力ではなく7割くらいの力で、下半身から上半身、そして腕という体全体のスイングの流れを意識して打つようにすれば、威力があり、かつ安定性のあるボールを打つことができるだろう。
奥が深すぎる中国卓球の秘密がギュ~っと詰まっている本書。
もう少し内容を紹介したいので、続きを後編で書きたいと思います。
ではまた!
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ありがとうございました
中等力量
いえ、とんでもないです。