奇想天外な韓国の卓球文学 『ピンポン』/パク・ミンギュ (著)

 

最新の卓球本をチェックしていたら卓球小説が出版されていたのでさっそく読んでみたんだけれど、これがなかなかぶっ飛んでいて面白かった。

 

ピンポン (エクス・リブリス)

 

著者のパク・ミンギュ氏のことはまったく知らなかったんだけれど、国内のあらゆる文学賞を受賞している、現代韓国を代表する作家であるらしい。

本書は韓国では何年も前に発売された作品らしいのだけれど、最近になって日本語版が出版されたということである。

で、この本を手に入れた翌日のアメトークが『読書芸人』だったんだけれど、偶然にもオアシズの光浦さんがこの本を紹介していたので驚いた。
光浦さんは「途中までは感動して泣きそうになったけど、予想外の展開になってビックリした」的なこと言っていたんだけれど、まさしくそんな内容であった。

 

「原っぱのど真ん中に卓球台があった。どういうわけだか、あった。」
という書き出しから物語は始まる。

釘(主人公)とモアイというあだなの男子中学生。2人は日々、いじめっ子から苛烈ないじめを受けている。ある日、原っぱのど真ん中に卓球台が置いてあるのを発見し、2人は卓球に熱中していく。相変わらずいじめの日々は続いているが、卓球ショップ『ラリー』の店主・セクラテンに卓球の手ほどきを受けたり、にわかに信じ難い卓球史(かつて卓球は戦争であった、など)を教えてもらいながら、ますます卓球にハマっていく2人。

ハレー彗星が来て地球に衝突してくれるのを待っている人たちの集う「ハレー彗星を待ち望む人々の会」に2人は入会し、ハレー彗星を待ちわびるが、落ちてきたのは巨大なピンポン球だった。ピンポン球は原っぱに着床し、卓球界はこの世とひとつになる。
そして、なぜか釘とモアイは、人類をインストールしたままにしておくのか、アンインストールするのか(人類を残すのか滅亡させるのか)の決定権をかけて、人類の代表である「ネズミ」「鳥」と卓球対決をすることに。

地球の運命を卓球で決めるという残酷な戦いに挑むことになった釘とモアイ。果たして勝負の行方は? 人類の運命は?

こんな内容なのであるが、これではどんな話なのかさっぱりわからないと思う。がしかし、『ピンポン』の内容を短くわかりやすくまとめるというのは非常に困難であって、もうとりあえず読んでみてちょうだいと言うしかない作品なわけである。

卓球をすることで2人の気持ちは軽くなっていくわけだが、いじめられっ子同士が卓球を通して心を通わせ、前向きに歩いていく勇気をもらって云々、という、いじめ克服小説でもなければ、青春スポーツ小説でもなく、あれよという間に物語は思わぬ方向にグネりにグネっていく。

ユーモラスでテンポのいい独特の文体にまんまとハマり、奇想天外で奇天烈なお話にぎゅんぎゅん引き込まれる。なんともクセになる不思議な魅力を持った小説である。

はっきり言って、好き嫌いがはっきりと分かれる作品であろうと思う。
私は不条理な世界観を描いた作品がお好きなものだから、『ピンポン』も面白く読んだが、そういうのが嫌いな人はまったく受け付けないのではなかろうか。

「なんだこのメチャクチャな世界観は!」と、卓球台をちゃぶ台のようにひっくり返して怒髪天を衝く人がいたら困るので強く勧めるということはしないが、卓球人であればどこかしらを自分なりに楽しめる作品ではなかろうかと思うので、機会があれば読んでみてもらいたいと思う次第である。

とある有名な作家が、「世の中は不条理なことだらけ。現実の世界での不条理に直面したときに慌てないためにも、前もって小説で様々な不条理を経験しておくといい」というようなことを言っていた。
卓球の試合というのも、不条理としか思えないようなことは起きるものだから、『ピンポン』を読んでおけばひょっとして、そのような場面でも決して動じない心を養うためのメンタルトレーニングになるのかもしれない。

 

6 件のコメント

  • これ読んでメンタルを鍛えれば、自分の点になりそうな時にやたらボールが割れるような不運があってもめげずに戦い続けることが出来るようになるかもしれませんね!

    • Kさん
      不可解なフォルトを何度も取られてガタガタっと崩れちゃうなんてこともなくなるかもしれませんねw
      ありえないような不運が続いた時にタイムアウトを取って、『ピンポン』をさらっと読んでメンタルを持ち直す、なんてこともアリかもしれません 笑

  • 不思議な世界観の小説はあまり読んだことはないですが、この作品は卓球人としては気になります。
    機会があれば手に取ってみたいです。

    • ラケットマンさん
      不条理小説はハマると抜けられなくなりますよー。
      『ピンポン』から入っていろいろな不思議小説に派生していかれることを願ってます。
      ぜひガルシア・マルケスの『百年の孤独』にもチャレンジを。

  • 不条理系好きですよ
    小説はジャンルを問わない主義なんですが
    漫画は理不尽なものしか読みません笑
    理不尽な世界や状況に立ち向かっていく様が
    惹かれます

    ただ、最近「ぼくらの」という
    不条理の極みのような漫画を読んでしまったので
    もう少し時間が経ってから
    こちらの本は読ませてもらいます笑

    • しんこうしんこうさん
      漫画は今年に入って割りと読んでいますが、不条理系はほとんど読んだことがありません。
      不条理の極みのような漫画というのは気になりますねぇ。
      私もそういう漫画も読まねばと思いますが、なにせ今年になってようやくワンピースを読み始めたくらいですから、いつになることやら・・・。

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