卓球王国を読む 2018年1月号

 

今月号も、北は目次から南は編集後記まで、1文字残らず読み倒しました。

 

卓球王国 2018年 01 月号 [雑誌]

 

一瞬、陸上の専門誌かと思っちゃう今月号。

表紙を飾るのはアフリカの英雄・アルナである。

 

ストリート卓球少年、世界へ羽ばたく

今月号の注目企画はコチラ。

【インタビュー】
アフリカの超星・アルナ
「ぼくの卓球は路上から始まった」

14年のワールドカップでベスト8に入り世界を驚かせ、リオ五輪では荘智淵やボルという世界のトップ選手を破り、アフリカ選手初のベスト8入りを果たしたクアドリ・アルナ

今ではナイジェリアのスーパースターとなった彼であるが、卓球との出合いはなんと「路上」だったという。
遊びでストリート卓球をやっていたアルナ少年は、やがて卓球の指導者と出合い、「室内」で卓球を始めることに。

その後着実に力をつけ、ナイジェリアのナショナルチームに入り、世界を驚愕させる選手へと育つわけだが、練習場所、指導者、用具など、あらゆる面で恵まれないアフリカの選手が世界レベルの選手になるというのは並大抵のことではない。

アルナも経済的な理由でプロツアーには参加できないという状況だったそうだが、ナイジェリア卓球協会の会長が個人的にお金をサポートしてくれるようになり、ワールドツアーにも参加できるようになったという。
アルナは多くの人に支えられており、そうした人たちのためにも、試合で簡単に負けるわけにはいかないという思いがあるようだ。

そんな、ストリート卓球少年からスター選手となったアルナであるが、自分のことだけを考えているのではなく、ナイジェリアの若手選手たちを、物質的・経済的に支援しているのだという。

――君はナイジェリアの若い選手たちを経済的にもサポートしていると聞いたけど
アルナ 6人の若い選手をサポートしている。でも、それは以前、会長にぼくが援助してもらったことを思い出しているだけだし、ぼくがしてもらったことをぼくはただ返しているだけなんだ。そして将来、ナイジェリアからもっと偉大なスターが生まれることを望んでいる。だからその6人は無料で用具を提供してもらえるようになった。
それに、いくつかの卓球場にぼくは卓球台を寄付している。でも、それもぼくが小さい頃にサポートしてもらったことへのお返しなんだよ。

アルナは今でもワールドツアーには自費で参加しているというから、日本選手や中国選手と比べてまだまだ恵まれてはいないが、自国の卓球を盛り上げるために積極的に支援に立ち上がっているわけである。

今回のインタビュー記事は本当に心打たれた。
アルナの卓球に取り組む姿勢や、サポートしてくれる人たちへの感謝、若手選手に対する優しさに感動すら覚える。

アルナから支援を受けた若手選手がさらにその次の世代へと繋ぐ。
そうして連綿と受け継がれた「ナイジェリア卓球の魂」はアフリカ全土に波及し、いずれアフリカから世界チャンピオンや五輪メダリストが誕生するはずである。

アフリカ卓球界が世界のトップレベルになった未来を思い描くだけで、もう私はワクワクが止まらない。
今後もアフリカ卓球界に大注目したい。

ちなみに今月号では、国際協力機構の卓球隊員としてエチオピアに派遣されている篠木伊貴さんによる特別寄稿「エチオピア卓球事情」もあり、こちらもアフリカ卓球界の興味深い卓球事情を知ることができて非常に面白い。
合わせて読むべし。

 

ユニークで野心的な選手育成期間

今月号で個人的に最も興味深く読んだのがコチラの企画である。

潜入!LMC [欧州卓球の最後の砦]

ドイツの田舎町オクセンハウゼンにあるLMC(リープヘル・マスターカレッジ)。
世界中から集まってきた20人の若者が日々練習に打ち込んでおり、それを支えるのは7人のコーチと13人のスタッフ。

ドイツの建設機械メーカー『リープヘル』がメインスポンサーとなり、卓球メーカーを含めた複数の企業がスポンサーとなって運営されている民間の選手養成機関だという。

元世界チャンピオンのシュラガーの名前を冠し、鳴り物入りでスタートした『シュラガー・アカデミー』は、規模を大きくしすぎたために財政的に立ちいかなくなり頓挫してしまった。
シュラガー・アカデミーのカウンターアイデアとして、ほぼ同時期にスタートしたLMCは、少数の才能ある選手に集中する「少数精鋭主義」を貫くプロジェクト。

ユニークなのは、人材が多国籍であること。
ゴーズィ(フランス)、カルデラノ(ブラジル)、ディアス(ポーランド)、ジェラルド(ポルトガル)、そして日本の村松雄斗、金光宏暢。
コーチ陣も、フランス、クロアチア、ロシア、中国、ハンガリーなど、あらゆる国から優秀な人材が集結する魅力的な集団となっている。

国籍や肌の色は関係なく、才能豊かなヨーロッパやアジアの選手をサポートしていくという明確なポリシーを持ち、中国一強の卓球界に風穴をあけようと一丸となって突き進んでいく情熱は並々ならぬもがある。

LMCのCEO(最高経営責任者)を務めるクリスチャン・ペジノビッチは次のように語る。

――LMCはある種の学校のようだ。しかし、選手たちは何年かすると卒業していくね。
 それが我々の仕事だ。選手たちは何かを感じ、何かを得て、ここを卒業していく。オクセンハウゼンのチームにプロ選手としてとどまることはできるけど、若い選手たちはLMCを卒業していく。
たとえば、イングランドチームはマレーシアの世界選手権で33年ぶりにメダルを獲得した。彼らは誇りを取り戻した。ピチフォードはLMCを卒業した選手だし、日本から勝利をあげたウォーカーはLMCで練習している。我々のために勝ったのではなく、イングランドのために戦った。それでいいんだ。ぼくらは何らかの形で世界の卓球界に貢献している。

LMCはクラブチームでもなければ営利企業でもない。
運営者やコーチたちは、LMCが称賛されるのではなく、とにかくLMCの選手(卒業した選手も含む)が活躍することを何よりの喜びとしている。

ヨーロッパ卓球界が衰退している現状において、LMCは今後さらに重要なものとなっていくだろう。

もちろんいずれはアフリカ卓球界の有望株もやってきて、アルナを越える人材が育つことも大いに期待したい。

 

さて、目玉企画も毎度面白い王国さんであるが、卓球ファン心をくすぐる細かい企画も実に良くって、たとえば、ある大会の記録を掲載しているコーナー。
今月号は[全日本社会人 シングルス・ベスト8 選手一覧]で、昭和42年度~平成28年度までの過去50大会で、一般男女シングルスのベスト8以上に入った選手800名を一挙に紹介している。

私はこういうのが好きなもんで、お酒を飲みながらこれを眺めているのが何気に楽しいのである。
鉄道ファンが路線図を眺めながらニヤニヤしているのに近いだろうと思うが、これぞ大人のたしなみなのである。

このコーナーだけをまとめた、「別冊 主要卓球大会 選手一覧」なんてのが出たら、迷わず買ってしまうだろう、なんて思う。

以上、1月号でした。

 

6 件のコメント

  • 読む前は村松選手の記事を注目していたのですが
    読んだらアルナ選手の記事に釘付けになりました笑
    カットマンとしてあるまじき行為です笑

    英才教育を受けないと勝てない
    的な風潮を壊してくれた選手は尊敬しますね
    自分自身、中学スタートなので
    小学校からやり込んできた人たちに
    勝てるようになるまで苦労したので
    自分自身と重ねて見てしまいます笑
    これからも頑張って欲しい選手

    • しんこうしんこうさん
      村松選手のインタビュー&技術特集もかなり良かったですが、アルナのインタビューは印象が強すぎましたね 笑

      アルナの卓球人生は、環境に恵まれない日本の若い選手にも勇気を与えるものだと思います。
      サッカーのようにアフリカや南米が強くなったら世界卓球やワールドカップもさらに面白くなるでしょうから、未来の卓球界のためにも、まだまだ現役で活躍してもらいたいですね。
      できればTリーグで見たいものです。

  • 確かにアルナ選手をTリーグで見たいですね~。
    とてつもない身体能力で日本の卓球ファンの度肝を抜いてほしいですね。

    • ラケットマンさん
      漫画のようなプレーをやってくれそうですよね 笑
      アフリカ選手は中国選手より見る機会が少ないのでぜひ実現してもらいたいですw

  • LMCの「自分たちにリターンが無くとも卓球界に貢献したい」みたいな感じいいですよね。今後ここからどんな選手が出るのか楽しみです。

    • Kさん
      そこがカッコいいですよねぇ。
      相当な苦労と試行錯誤があると思いますが、自分たちへの称賛ではなくあくまでも選手第一主義。これはなかなかできることではないですよね。
      あと数年後にはヨーロッパ卓球界のレベルもグッと上がっている予感がします。
      ひじょう~に楽しみです。

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