卓飯 ~テーブルでは卓球と旨い飯を~ 第5ゲーム『世界のビールと謎解き』

 

作品概要

※ブログで執筆する都合上、一般的なシナリオのルールとは少し違う書き方をしています。
※登場する卓球場や飲食店はすべて架空です。

【シナリオ用語】
N=ナレーション
М=モノローグ(心の声)
同=同じ場所

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〇 杉並区のとある卓球教室(夜)
戸倉健司(28)と戸倉芽衣(28)が練習をしている。

健司のN「今日は仕事終わりで芽衣と合流していつものように2人練習。今日来ているこの卓球教室は会員以外の人にも卓球台の貸し出しを行っていて、しかも1人1時間400円という安さ。やたらと卓球用具を購入するため懐具合が常に心許ない俺にとって、こういう卓球場の存在は実にありがたいものである」

サービスを出し、バックサイドに返って来たボールを回り込んで全力でドライブを放つ健司。

健司「でいっ!」

芽衣、難なくフォアサイドにブロックし、ノータッチで抜ける。

健司「あれ……」

健司、サービスからの3球目をフォアドライブ。ラリー戦になり、中陣から必死にドライブを打つ。
芽衣、甘いドライブをカウンタースマッシュ。

健司「……」

ニヤリと笑う芽衣。

〇 休憩所
健司と芽衣、ペットボトルの水を飲みながら休憩している。

健司「しかしさぁ、芽衣は俺の渾身のドライブをあっさり返してくれちゃうよね。さすがにショックがでかいよ」
芽衣「あんまり威力がないからね」
健司「やっぱり? だよねぇ。そうなんだよぉ」
芽衣「回転はけっこうかかってるんだけど、スピードが遅いんだよね」
健司「そうなんだよ。俺もそこをどうにかしたいと思ってるんだよ」
芽衣「うん、どうにかしないとね」
健司「そこで相談なんだけどさ、どうしても買いたいラケットがあるんだよね」
芽衣「また?」
健司「もう少し弾みのあるラケットにしたいんだよ。最近発売された中ペンで気になってるのがあって、この間卓球ショップで試打させてもらったらこれがむちゃくちゃ弾むんだよ。シェークはこういうのがたくさんあるけどペンはなかなかないんだよ。だからどうしてもそれが欲しいんだよね」
芽衣「用具を替えたら問題が解決すると思ってるんでしょ? 健ちゃんの悪い癖だよ。まず練習して腕を磨くことを考えなさいって」
健司「もちろんそうなんだけど、大人の卓球は用具でどうにかするっていうのが大きな楽しみのひとつなんだよ。用具をあれこれ試しながら試行錯誤するのが大人卓球の醍醐味ってやつですよ」
芽衣「で、相談というのは?」
健司「今月のお小遣いをちょっと多めにもらえないかと」
芽衣「却下!」
健司「早っ!」
芽衣「ボールに威力が欲しいなら筋トレしなよ」
健司「この歳で筋トレは続かないよ。そこを用具でカバーするのが大人卓球なんだって」
芽衣「その大人卓球ってのはなんなの?」
健司「だからそれはだね――」
芽衣「とにかく却下!」
健司「聞く気がないね」
芽衣「じゃ、あと1時間、練習練習!」
健司「はい……」

タイトル『卓飯 ~テーブルでは卓球と旨い飯を~』
第5ゲーム 『世界のビールと謎解き』
軽快なラリー音が響く。

 

〇 同・階段
健司と芽衣、卓球場(3階)から出て階段で降りている。

芽衣「ふぅ。今日はいつも以上に激しい練習だったね」
健司「もうヘロヘロだよ」
芽衣「お腹の空き具合もいい感じ」
健司「めちゃくちゃ空きまくってるよ。そういえばまだ聞いてなかったけど、今日は何を食べるの?」
芽衣「今日はねぇ、ビール」
健司「ビール? それはいつも飲んでるでしょ」
芽衣「料理も食べるけど、メインはビールってこと」
健司「ほぉ。ビール屋さん?」
芽衣「うん。ビアスタンド。世界中のビールが飲めるんだよ」
健司「おお! そりゃ凄い」

〇 ビアスタンド・表(杉並区)
シックな雰囲気の外観。

健司「お、なかなか良さげな雰囲気」
芽衣「なんだかワクワクするね」
健司、ドアを開ける。店内に入る2人。

〇 同・店内
店内はほんのり薄暗い。客の入りは8割。
4~5人掛けのテーブル席が4つと、9人掛けのL字型ウッドカンター。
大きな冷蔵庫に世界中のビール瓶が並んでいる。

健司「(冷蔵庫に目をやり)ほぉ~。圧巻だねこりゃ」
芽衣「ビール党にはたまりませんねぇ」

健司と芽衣、カウンター席の一番端に座る。
メニュー表を手に取る2人。

健司「わわ。80種類のビールだって。これはさすがに迷うね」
芽衣「一杯目はスリランカの『ライオンラガー』にしてみよっと」
健司「早っ! さすが速決の芽衣。じゃあ俺は、ギリシャの『フィックスビール』にしよっかな。
(店員に)すみません、『ライオンラガー』と『フィックスビール』ください」
店員「はい」
健司「ビール専門のバーって、俺初めて来たよ」
芽衣「私も初めて。いろんなラベルのビールがズラッと並んでるのを見てるだけでビール好き人間はちょっと幸せを感じるよね」
健司「卓球ショップでラバーやラケットがズラッと並んでるのを前にしたときの興奮とちょっと似てるかも」
芽衣「うん、なんとなくわかる」

店員が『ライオンラガー』と『フィックスビール』の瓶とグラスを2つと、お通しの鶏軟骨の唐揚げを健司と芽衣の前に置く。
健司と芽衣、お互いのグラスに注ぎ合う。

芽衣「ではでは、本日もお疲れ様」
健司・芽衣「(ジョッキを掲げて)ラブオ~ル」
健司と芽衣、ビールを飲む。
健司「はふ~~ん」
芽衣「ぷは~~ん」

健司「独特の味がする。でも旨い」
芽衣「うん、美味しい」

鶏軟骨の唐揚げをつまみながらビールを飲む2人。

健司「ところで芽衣……」
芽衣「ん?」
健司「お小遣いの話なんだけど……」
芽衣「なぬ? またその話?」
健司「どうしても欲しいんだよ、新しいラケットが。頼むよ芽衣ちゃん、(拝みながら頭を下げる)この通り!」
芽衣「どうしても欲しい?」
健司「どうしも欲しいです」
芽衣「もう、しょうがないなぁ」
顔を輝かす健司。
芽衣「ただし、私が出すクイズに答えられたらね」
健司「クイズ?」
芽衣「そう」
健司「どんなクイズでしょう?」
芽衣「私が今から飲むビールにどんな規則性があるかを当てるの」
健司「規則性? なんだか難しそうだね」
芽衣「卓球に関することだからぜんぜん難しくないよ」
健司「わかった。頑張って当てるよ」

芽衣「(メニュー表を広げて)すみません。『ボルショディ』ください」
健司「(メニュー表を見ながら)じゃあ俺は、『テカテ』。それとタコライスください」

店員、『ボルショディ』と『テカテ』の瓶・グラス2つ・塩の入った皿・タコライスを2人の前に置く。
健司、ライムをグラスのふちにつけ、グラスを逆さにして塩の入った皿に押し付ける(グラスのふちに塩がつく)。そしてビールを注いで飲む。

健司「あ~旨いなぁ。メキシコにいる気分になるよ」
芽衣「このビールもすごく美味しい」
健司「それ『ボルショディ』って言ったっけ?」
芽衣「うん。ハンガリーのビール」
健司「ボルショディ……ボルショディ……あっ、わかった!」
芽衣「ん? クイズの答え?」
健司「うん。ビールの名前に卓球選手の名前が入っている! ドイツの英雄ティモ・ボルの名前が入ってるじゃん」
芽衣「ほんとだ。でも違うよ」
健司「違うの? なんだよぉ。じゃあもっとヒントちょうだいよ」
芽衣「健ちゃんもクイズに関するビール飲むの手伝いなよ。飲めば飲むほどヒントが増えるわけだから」
健司「なるほど。じゃあ俺もクイズ絡みのビールを飲むよ」
芽衣「じゃあ、次はインドの『キングフィッシャー』と韓国の『ハイト』を飲もう」

×   ×   ×
健司が『キングフィッシャー』芽衣が『ハイト』を飲む。

健司「インドはビールのイメージなかったけど、旨いなぁ。でもクイズの答えがさっぱりわからない」
芽衣「(不敵な笑み)」
健司「国際大会の団体戦で日本に勝ったことがある国、とか?」
芽衣「ブッブー」
健司「だよね」
芽衣「こっからが本番だよ。じゃんじゃん飲むよ~。次は日本の『ヱビス プレミアム ブラック』と中国の『チンタオ』」

×   ×   ×
健司が『ヱビス プレミアム ブラック』芽衣が『チンタオ』を飲む。

健司「んはぁ~。日本のビールってやっぱり旨いね」
芽衣「中国ビールもなかなかいけるよ」
健司「中国もあんまりビールってイメージないよね」
芽衣「中国はずっとビールの消費量が世界1位なんだよ」
健司「え? そうなの?」
芽衣「人口が多いってのもあるけど、中国人はビール好きが多いらしいよ」
健司「へぇ、そうなんだ。そういえば卓球の中国男子代表の中にだいたい1人はビール腹とまではいかないけど、ポッチャリの選手がいるよね」
芽衣「しかもだいたいエースなんだよね」
健司「不思議な国だよ、まったく」
芽衣「で、クイズの方は?」
健司「さっぱりわかりません」
芽衣「ヒントは順番だよ順番」
健司「なにかの順番通りに注文してるってこと?」
芽衣「そう。ほんとはインドと韓国の間にもうひとつある国のビールが入るんだけど、この店には置いてないからパスしたの。この店というより日本にその国のビールはないと思う」
健司「なんでないの? それはどこの国?」
芽衣「それは言えません。そのへんも推理して答えを導き出してみて」
健司「……」
芽衣「ではお次は、オーストラリアの『フォーエックス ゴールド』とブルガリアの『ザゴルカ』ね」
健司「あとソーセージの盛り合わせとプルコギも」

×   ×   ×
健司が『フォーエックス ゴールド』芽衣が『ザゴルカ』を飲む。

健司「このクイズってさ、ビールの名前は関係あるの?」
芽衣「ないよ」
健司「ないんかい! 名前にずっととらわれてたよ」
芽衣「国と順番で考えればわりと簡単に答えは出るよ」
健司「う~ん、世界ランキングに関係してるのかなぁ。U15とか団体の世界ランキングとか」
芽衣「違いまーす。では次、チェコの『ピルスナー・ウルケル』とオーストリアの『ゲッサーダーク』」

×   ×   ×
健司が『ピルスナー・ウルケル』芽衣が『ゲッサーダーク』を飲む。

芽衣「チェコは一人当たりのビール消費量が世界一のビール大国なんだよ」
健司「へえ、知らなかった。卓球だとチキータの生みの親のピーター・コルベルの出身国だね」

ソーセージの盛り合わせとプルコギを食べながらビールを飲む2人。
健司、かなり酔いが回っている。

芽衣「で、クイズの方は?」
健司「う~ん、わかんない。頭が回らなくなってきた……」
芽衣「次がラストだから、頑張って。最後はドイツの『ベックス』とスウェーデンの『ベルマン』」

×   ×   ×
健司が『ベックス』芽衣が『ベルマン』を飲む。

健司「ふぅ~。さすがビールの本場ドイツ。旨いわぁ」
芽衣「今日はだいぶ飲んだね」
健司「大満足です」
芽衣「じゃあ最後の回答チャンスです。クイズの答えをどうぞ」
健司「え~っと……世界卓球の開催地!」
芽衣「ブー。ちょっと違うんだなぁ」
健司「くそぉ……正解をお願いします」
芽衣「正解は、ワールドツアーの開催地でした!」
健司「(悔しそうに)あ~、そっちかぁ……」
芽衣「インドと韓国の間のパスしたビールはカタールのビール。カタールはイスラム教の国だから飲酒は禁止されてるからね」
健司「なるほど」
芽衣「ということで、残念でした」
健司「がっくし……」

健司、カウンターに突っ伏してそのまま寝る。

〇 道
健司と芽衣が歩いている。

健司「あーあ、せっかくのチャンスだったのになぁ。ちょっと考えればわかる問題だっただけにショックが大きいよ」
芽衣「だいぶ酔ってたからね」
健司「我ながら情けないよ」
芽衣「そんな健ちゃんに、スペシャルチャーンス!」
健司「なになに?」
芽衣「私は健ちゃんが寝ている間にもう一杯だけビールを飲みました。日本の『ザ・プレミアム・モルツ』です。ある願いを込めてこのビールを飲んだのですが、それはどんな願いでしょう?」
健司「願い? う~ん……これまた難しい」
芽衣「ヒントはワールドツアーです」
健司「え? またそれ?」
芽衣「5月現在ではまだわからないけど、あともう少ししたら私の願い事の結果が出るよ。はい、それもヒントね」

健司、しばらく黙って考えながら歩いて、

健司「ダメだ。まったくわかんない」
芽衣「あ~あ残念」
健司「正解をお願いします」
芽衣「正解は、ワールドツアーグランドファイナルの開催地でした!」
健司「というと?」
芽衣「ワールドツアーグランドファイナルの開催地ってまだ決まってないんだよ。だから日本になったらいいなっていう願いを込めて日本のビールを飲んだってこと」
健司「そういうことか……」
芽衣「そういうことです」
健司「芽衣さん、もう1問だけチャンスをください!」
芽衣「もうダメです。ラケットは諦めてください」
健司「はぁ~……」
芽衣「残業でもして収入を増やせばいいんじゃない?」
健司「残業はしません! 俺は卓球をする時間をできるだけ確保するために仕事は必要以上にやらない男ですから!」
芽衣「自慢げに言うな!」

(了)

 

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6 件のコメント

  • 物語の練りが凄いですね笑
    そういえば卓球王国の別冊が出版されましたが、
    買いましたか?
    僕はいま絶賛熟読中です

    • しんこうしんこうさん
      考えたり調べたりでえらく時間がかかっちゃいました(>_<) おかげでビールに詳しくなりましたが(笑) 王国の別冊はまだ買ってません。 今年のもかなり面白そうですよねぇ。 次は卓レポと王国を読んで、そのあと時間的に余裕があれば買おうかと思います ^-^

  • ワールドツアーを出してくるとは笑
    思わずニヤリとしました笑
    ぽっちゃり選手とはファンジェンドンの事だと勝手に解釈しています

    • シェーク裏裏野郎さん
      ワールドツアーは今年からリニューアルされたので話題としては旬かなと(笑)
      ポッチャリ選手はひと昔前なら王涛が典型的ですね。
      王皓なんかもそうですよね。
      馬琳は……どうなんでしょうねぇ 笑

  • ワールドツアーと世界のビールを題材としたクイズ、難しかったですね。どんどん注文する世界のビールの名前に、読んでいるだけで酔いが回ってくるようです。健司さんは6本、芽衣さんは合計7本、一本350mlとしても二人とも2㍑以上は飲んでおられますね。健司さんがクイズの答えを外してカウンターに突っ伏してしまったのはむべなるかなと思いました。
    でも飲み代でラケット買えちゃうんではないかという思いも。これは野暮ってえものでげすね。

    • ペンドラ直ちゃんさん
      いつもありがとうございます。
      ワールドツアーの開催国を気にしている人はあまりいないようなので意外に難しいのかもしれませんね。
      2人はかなりのビール党なので、飲むときはけっこういっちゃいますねw
      確かに少しビールを控えればラケット代の足しにはなりますが、せっかくビアスタンドに行ったんで、自分だけがビールを控えるということはさすがにできなかったんでしょうねぇ(笑)

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