以前から気になっていた本をやっと読んだ。
『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』という本で、ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞し、嵐の二宮くん主演でドラマ化もされた本である。
東大合格者数1位の超進学校である開成高校の野球部が、平成17年の全国高等学校野球選手権大会の東東京予選でベスト16にまで勝ち進んだ。
敗れた国士舘高校が優勝したので、もしかすると夏の甲子園大会に出場できたかもしれなかったという、ある意味奇跡的な活躍と言える。
著者はどんな練習をしているのかと取材に行くが、守備練習はおろか、キャッチボールでさえエラーをするというド下手っぷりに驚く。
開成高校は他の部活との兼ね合いで、野球部がグラウンドで練習できるのは週にたったの1回だけ、それも3時間ほどしかできないという(それ以外の日は各自が走ったり素振りしたりと、自主的な練習をする)。
そんな圧倒的に練習量の少ない開成高校が一般的な野球のセオリーで勝てるはずもなく、常識破りの考え方をしなければならないのである。
東京大学野球部出身の青木秀憲監督が用いる独自の理論によって、開成高校野球部は普通では考えられないような野球をする。
最も特徴的なのは「守備を捨て、超攻撃的打線で勝つ」ということ。
先頭打者が打って2番がバントで送って3番と4番が長打を打つ、といった、一般的な野球のセオリーで1点取ったとしても、開成高校の場合はその裏の攻撃で10点取られてしまう。
このセオリーには「相手の攻撃力を抑えられる守備力がある」という前提があるわけで、それがない開成高校は「10点取られる」という前提で「一気に15点取る打順」にする必要がある。
そこで開成の場合は、徹底的に打撃を鍛え、「全員が打てる選手」という並べ方をする。
すると、その回の先頭打者が8番9番という下位打線の時がチャンスとなる。
下位打線が打つと相手ピッチャーは動揺してしまう。そこへ1番打者が長打を打ち、ショックを受けているところで2番が打って点を取る。さらにダメ押しで3番4番5番6番が続いて勢いをつける。
「いったん勢いがつけば誰も止められません。勢いにまかせて大量点を取るイニングをつくる。激しいパンチを食らわせてドサクサに紛れて勝っちゃうんです」
つまり「10点取られても15点取って勝てばいい」という野球だ。
なのでエラーをしても気にしない。取られた点以上を取れば勝てるのだから。
練習時間が少ないので守備の練習はほとんどせず、とにかく「思い切り振る」という練習に特化する開成高校野球部。
「甲子園へ行く」ではなく「強豪校を撃破する」ことを目標に掲げ、しかしその結果として甲子園出場という夢をつかむ可能性があるのだという。
卓球でもそうだけれど、練習時間が短い選手が、ゴリゴリに練習している強豪校の選手に勝つのは難しい。
しかし「どうせ勝てるわけないんだよ」などと諦めてはいけない。
開成高校野球部のセオリーを取り入れるなら「ブロックやツッツキなどの守備的な練習はせず、ひたすら攻撃力を磨く」というやり方がある。
とにかく打ちまくるスタイルで、相手の攻撃に対しては「オールカウンター狙い」。
ハマれば一気にダダッと得点を重ねて勝つことができる、というわけだ。
野球で言うところの「エラー」は、卓球で言えばサービスミスであるが、サービスミスなんて気にせずに思いきったサービス(めちゃくちゃ速いロングサービスなど)をバンバン出していく。
無難なサービスを出していたら2点取られてしまうが、超攻撃的なサービスを出せば自分が2点取れる可能性がある。
つまり「サービスと3球目攻撃」を徹底的に鍛えるということ。
圧倒的な格上を相手にラリーなんて続かないので、ドライブの引き合いやフットワークは練習しない。
ひたすらサービスと3球目攻撃を鍛えるのだ。
開成高校野球部は、相手ピッチャーが「下位打線に打たれた……開成の選手に打たれた……」と動揺しているところをメッタ打ちにする作戦なわけだが、卓球の場合も、相手のドライブやチキータをバッシバシとカウンターしてやれば、相手は動揺して調子を崩すかもしれない。
そこを一気呵成に畳み掛ければ勝てるかもしれないというわけだ。
青木監督はこう言っている。
「球に合わせようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うということを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです」
「ピッチャーが球を持っているうちに振ると早すぎる。キャッチャーに球が届くと遅すぎる。その間のどこかのタイミングで絶対合う。合うタイミングは絶対あるんです」
卓球にも通じる言葉ではなかろうか。
どこかのタイミングで絶対合うから思いきったスイングをすることが大事ということ。
開成高校野球部は、負ける時はフルボッコにされてコールド負けを喫することも多い。
しかし打線がハマれば強豪校相手に10点以上取って勝つこともある。
卓球で言えば、1ゲーム1~3点しか取れずに負けることも多いが、攻撃がハマりまくって格上に勝つこともある、ということ
本書を読んで、圧倒的に練習量が少ない選手が強豪校の選手に勝つためのセオリーとして、開成高校の野球哲学は大いに参考になると思ったわけだが、注意すべきは「何を捨てて何に特化するか」ということである。
カットマンが、「格上に勝つためにはカットで粘っても勝てないからカットの練習は捨てる!」なんてことになれば、それはただ単に「カットマンから攻撃マンに転向しただけ」である。
開成哲学を参考にするならば、そのへんの判断を間違えないように気をつけたし。
ところで、開成高校に卓球部はあるのだろうか?
開成に限らず、超進学校卓球部の練習って気になりますな。
超進学校だけの全国大会なんてあったら面白いかも。
筆記テストで一定の点数を取らないと予選にすら参加できないってことにして、それで各都道府県の代表となった秀才たちが卓球の日本一を争う。
全国超進学校選抜卓球大会、略して「進卓」
そしたらいずれ「進卓と全国模試の2冠達成!」なんて選手も出てきたりなんかして。
あるいは、ラブゲームで負けてしまった選手の「人生で初めて0点を取りました」なんていう敗戦の弁が卓球王国に載ったり。
なかなか面白そうな大会ではないか。
ぜひ実現してほしい。
てなわけで、最後はややアホなことを書いてしまったので、青木監督のこの言葉でバシッと絞めたいと思います。
いいか、俺たちは1イニングで10点という野球をやっている。相手がびっくりするような異常なことをやるんだ!
開成高校野球部監督が書いた本があったよなーと思っていて忘れかけたところに要領を得たブックレビュウ、有難うございました。選手たちは東大に入り、財務省などの官僚となり、善良な小市民を支配する立場になると思われるのでここではとりあえず無視することにします。
監督は高偏差値開成の御旗をバックに精神的にビビらせる戦略をとっているようにおもいます。開成のへぼに打たれたことは精神的なショックになるはずです。むきになって投げ込んだ棒玉がまた打たれるという悪循環が味方にビビり菌をまきちらすという構図か。
私は40歳過ぎから卓球を始めたので、中学、高校と卓球部だった人には歯が立ちません。なんとかzizii卓球を極めて一矢報いたいと日々思っております。参考になるのはヨーロッパリーグに参戦している元中国のおっさん、おばさん選手です。特に注目しているのはスペインリーグにいる何志文という54歳のペン表の選手です。年ですから(わたしより10歳以上若いですけど)フットワークはほとんど使いません。前陣速攻というやつです。その攻撃を担保するのはサーブとサーブレシーブです。攻撃的なサーブとサーブレシーブで常にアドバンテージをとっています。ナルコ様がいみじくも指摘されるとおり「サーブと三球目攻撃」に特化して練習することは後発ZIZIIにとって大切かもしれませんね。
ペンドラ直ちゃんさん
選手は東大に入る人が多いようですが、本気で大リーグを目指している選手なんかもいて、なかなか個性的なチームのようです。
監督は確かによく怒鳴る方のようで、今の卓球界にはあまりいないタイプの指導者かもしれません。
何志文は私も大好きな選手で参考にしています。サービスの切れ味がたまりませんね。
大人卓球の最高の教材だと思います。
元中国代表の女子選手・高軍も良きお手本になる選手だと思います。
はじめまして、いつも興味深く読ませていただいています! 大学生です。
私の中学は都内の私立でした。開成中の卓球部は、私学大会では上位にいた印象があります。
高校は神奈川で、私の代では湘南高校(県下随一の進学校)が団体32になったことがありました。記事を読んで調べてみたら、東京でもここ1,2年の間に日比谷高校や開成高校が32に入ったことがあるみたいです。
また、個人だと、つい先日の全日学には東北大と岡山大の医学部の方が出場されていました。特に岡山大の方は、高校の神奈川大会で優勝したこともある、専修大の選手に勝っていて驚きました。少し古い話ですが平野美宇選手のご尊父が筑波大のレギュラーとして活躍された後、宮崎大学を出て医者をされているという例もあります。
進学校だからこそ、勉強だけでなく練習にも何か工夫している所もあるのかもしれませんね。
へべこさん
はじめまして!
貴重な情報ありがとうございます!
レベルの高い東京や神奈川で32に入るのはかなりの実力ですね。
ますます進学校卓球部の練習が気になってきました。
大学の医学部が全国大会に出場するのもほんとに凄いことですよね。
そういった人たちは自分たちなりのしっかりとした練習哲学があるんでしょうね。
卓球王国さんあたりが取材してくれないかなぁ、なんで期待してしまいます(他力本願 笑)。