スポーツ選手に対する「日本出身」という表現はアウトなのか?


大相撲の初場所で大関の琴奨菊関が優勝して相撲ファンを歓喜させたことは記憶に新しい。

私も相撲が大好きなので、大関の31歳にしての初優勝に大喜びした一人です。

で、この快挙をメディアが伝える時、「10年ぶりの日本出身力士の優勝」という表現が使われましたよね。
このことについて「違和感がある」といった意見が多く出ているようですが、遅ればせながら私も思うところをちょっとだけ書こうと思います。

 

まず初めに、なぜ「日本出身力士」という表現を使うのかというと、2012年の夏場所で優勝した旭天鵬(現・大島親方)が、モンゴル出身だけれども、優勝時には帰化して日本人になっていたため。
旭天鵬の優勝は「日本人力士の優勝」ということになるから、琴奨菊が優勝して「日本人力士の優勝」と表現すると「いやいや、旭天鵬は日本人だから」とツッコミが入ってしまうわけですね。

2006年の栃東(現・玉ノ井親方)が日本出身力士として優勝してからの10年間の優勝力士を見ると、旭天鵬を含め、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜、照ノ富士、といったモンゴル出身力士がほとんどで、そこに琴欧州(ブルガリア)や把瑠都(エストニア)という2人の欧州出身の力士がいる。

こうした状況の中で、栃東以来の日本出身力士の優勝に盛り上がったわけですが、そこで、琴奨菊の初優勝を特別視するということが、外国出身力士らへの敬意に欠けるのではないかと指摘する声が多く挙がったのです。

 

しかし私は特にアウトな表現だとは思いません。
私はこうした表現は「有益な情報である」と思うのです。

仮に「旭天鵬以来の日本人力士の優勝」と報じたとしたら、相撲をよく知らない人が聞けば、「ああ、そうなのね」で終わってしまう。
だけど「10年ぶりの日本出身力士」と聞けば、そこからあれこれ考えるきっかけになるんじゃないでしょうか。
「なぜ日本出身力士はずっと優勝できなかったんだろう?」
「モンゴル出身力士の強さの秘密はなんなのか?」
といったことに思いを巡らすきっかけになるということです。

モンゴルに限らず、現在相撲界にはあらゆる国の力士がいて、これほどグローバル化した中で「日本出身力士」「外国出身力士」を区別するのはナンセンスという意見もあるが、区別して考えるからこそ競技の進歩にも繋がると思うのです。

私はよく、「こんなにモンゴル出身の力士が強い理由は、生まれながらの身体能力が日本人とは違うのだろうか?」とか「育つ環境に秘密があるのか?」とか、あれこれ考えるのだけれど、相撲関係者がそうした考察をすれば、日本出身力士が強くなるヒントが見つかるかもしれないわけです。

だから誰がどこの国出身であるという情報を知ることは大事なことだと思います。

仮に、白鵬、日馬富士、鶴竜の横綱3人が全員帰化して日本人になっていたとしましょう。

そしてこのうちの誰が優勝しても、日本人として扱うためモンゴル出身であることについていっさい触れずに報じたとする。

そうすると世間的には「日本人はやっぱり相撲が強い」という印象になるでしょう。

それに比べ、全員帰化していたとしても、モンゴル出身であるという情報も伝えながら報じた場合、先述したように、「DNA的な違いなのか?」「食生活などの環境の違いなのか?」といったことを考えるきっかけになります。

そこに差別的な意識はありません。むしろ強さへのリスペクトです。

 

卓球界に置き換えて考えると・・・

 

90年代から00年代前半にかけて日本で活躍した、小山ちれという選手がいます。


全日本選手権で優勝すること8回という大記録を打ち立てた選手ですが、小山選手は元中国代表で、シングルスで世界チャンピオンにまでなった選手です。

帰化して日本代表となり、オリンピックなどの国際大会で活躍したのですが、この小山選手が仮にオリンピックで金メダルを獲得したとしましょう。


小山選手の金メダルはとてもめでたいことだし、そのことについては大いに称賛するべきです。
「日本人が金メダルを取った」という称え方で何も問題はありません。

ただこれを「日本人がついに世界の頂点に!」「卓球ニッポンの復活!」とだけ報じて、中国出身ということに触れずに報じたら、卓球をよく知らない人が聞くと、「日本の卓球界のレベルが上がったんだな」という印象だけになるでしょう。

そこに中国出身であるという情報があれば、「やっぱり小さい頃から中国で鍛えられた選手は強い」という印象になる。

これはかなりの違いだと思います。

指導者としても、「日本も金メダリストを生むくらいの練習環境になってきた」と安心するのではなく、「やはりもっと中国式の練習を研究して取り入れよう」と考えたりする材料にもなります。

小山さんは日本人になったんだから中国出身であることに触れることは失礼だという理由でその情報は伝えない、という方が不自然です。

外国出身者の活躍はきちんと称賛し、かつどこの出身かという情報も伝えればいいのではないでしょうか。

 

横綱・白鵬が日本人横綱の大記録を次々と塗り替えていますが、マスコミは大々的に報じて称賛しています。
横綱が3人ともモンゴル出身力士という事実も、「やっぱりモンゴル人力士はすげえ!」と相撲ファンはリスペクトしているわけです。
「モンゴルにどんな秘密があるんだ!」と興味津々なわけです。

つまり、特にスポーツにおいては、どこで生まれ育ったとか、どこの国の練習方法で強くなったのかということがけっこう重要になると思います。

なので出身地にこだわることはイケないことではないと思います。

「琴奨菊は日本出身力士」
「旭天鵬は日本人
力士だけれど、モンゴル出身」

どちらも重要な情報です。

それぞれの活躍を正当に称賛するのであれば、出身地にこだわった報じ方でも問題ないのではないでしょうか。

※ちなみに私が一番好きな力士は、横綱・日馬富士(モンゴル出身)です。

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