卓球王国を読む 2017年1月号

今月号は、鈴虫の羽音を聞きながら、秋の夜長に読みふけりました。

ディープすぎる水谷隼の思考

今月号の目玉企画はこちら

水谷隼の頭と腕〈前編〉

まず企画のタイトルが素晴らしいよね。何だか深いことが書かれていそうではないかとワクワクさせてくれる。

で、事実その通りであった。
「超一流と一流の差は意識の違い」と語る水谷選手の、深くて研ぎ澄まされた超一流の思考に迫る企画となっている。

①「リスク」を管理する
②「想定外」で差がつく
③水谷隼が語る「サービス」
【SPECIAL ISSUE】水谷隼のボディの秘密

という構成であるが、ここでは、「リスクを管理する」の中から、水谷選手がラリー中に常に考えるという「リスクを負う意味」についての考えの一部を紹介する。

「自分がこのボールに対してリスクを負って打って、意味があるかどうか」。それはラリーの中でよく自分と相談する。
ぼくは「8割の確率で得点できる」という確信がなければ、入る確率が20%~30%という難しいボールは打たない。たとえば自分の3球目攻撃など、相手がまだ前陣にいる場合は一発で得点できる可能性が高いので、難しいボールでも積極的に狙っていく。リスクを負うだけの意味があるからだ。
しかし、台から距離を取って打ち合っている段階ではどうか。たとえば、非常に質の高いループドライブが来て、自分の立ち位置が台から離れていたとしよう。入る確率が20%~30%のカウンターで強引に狙っても、相手もすぐ中陣に下がってラリーに備えているので、得点できる確率は5割くらいかもしれない。それならば、入る確率が80%~90%のボールで確実に繋いで、またラリーにしてチャンスを作ればいい。
(中略)
一度自分のパターンではなくなったら、一回つないで自分のパターンに戻すのがぼくのプレーの基本だ。しかし、以前より僕のプレーはアグレッシブ(攻撃的)に見えるだろう。それは技術力と身体能力が上がって、10%~20%しか入らなかったボールが30%、40%まで確率が上がってきたからだ。入ると思うボールの幅が広がったことで、よりリスクを負った攻撃ができるようになっている。

これはほんのさわりの部分で、ここからは実際の試合の連続写真を使いながら、具体的なリスク管理についての解説が続く。

これまでも水谷選手の特集は何度も組まれており、その度にその計り知れない深い思考に驚かされてきたが、今回の特集は今まで以上にディープで濃厚な内容であった。
進化し続ける水谷選手の卓球哲学は、どこまで掘り下げてもその底が見える気配はなさそうである。

誰も到達しえない圧倒的な思考の極みがここにあると感じた。

怪物を育てた練習

そして、今月号から新たな企画がスタートした。
それがこちら!

短時間で強くなる!最強の多球練習
〈vol.1〉フォアハンド強化〈前編〉

怪物中学生・張本智和を作り上げた多球練習のノウハウを、張本選手の父親である張本宇さんが紹介するという企画。

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あの張本くんを作った多球練習なんて、さぞかし凄い秘密が隠されているのだろうと思いきや、内容はいたってシンプルなものである。

しかしこれを読んで「なんだ、特別な秘密を教えてくれるんじゃないのかよ」などと思ってはいけない。
短い時間でもポイントを押さえて練習すれば効率良く強くなることができるということであり、そのポイントを教えてくれるのがこの企画なのである。

この中に張本選手のこんなコメントが載っている。
フットワーク練習では、常に理想的なフォームで打つことを重視しています。速く動けてもスイングが崩れてしまってはダメですね。あとはだんだん姿勢が高くなってくるので、常に姿勢を低くする意識も大切です。

つまり張本流は「基本」を大事にしているということ。
「正しい基本を身につける」という意識を持ち、その上でシンプルな多球練習で効率良く練習することが怪物への道となる、ということだと思う。

今後この連載で明かされていくであろうシンプルな多球練習の極意は、多くの伸び悩む初・中級者や指導者にとって、大いに参考になるのではないだろうか。

スーパーカットマンキラー

毎度興味深い内容の「目指せ!カットマンキラー」であるが、今回は一段と面白かった。

登場したのは「カットマンには無敵」と評される男・軽部隆介選手(シチズン)。
軽部選手は、男子では珍しくスマッシュを多用する選手で、ブチ切れカットに対しても容赦なくスマッシュを打ち込んでいくという。

そんな最強カットマンキラーが、カットマン攻略法のすべてを明かしているという、非常にワクワクする、かつカットマンにとっては身の毛もよだつ内容となっている。

ここでは、軽部選手の必殺スマッシュに関してのポイントを抜粋する。

これが軽部の必殺スマッシュ
角度が合えば絶対に入る!
(前略)
私が大事にしていることは、切れたカットに対して打つということです。スマッシュは直線的に飛ばすので、切れているカットの方が勝手に前に飛んでくれるし、下回転がかかっているので、相手のコートに落ちてくれます。しかし、ナックルカットは相手のコートでボールが落ちてくれずにオーバーミスをしてしまいます。そこでミスをしてしまうと、次に打つのが怖くなってしまい、メンタル的にも良くない。相手のカットが切れていれば、オーバーミスをする怖さがないので、思い切り振っていけるのです。
また、スマッシュもドライブと同じで、入るラケット角度を探していきます。切れたカットに対して打ち、ネットミスをしたら、ラケットの角度を少し上向きにして打ちましょう。角度さえ合えばスマッシュは絶対に入ります。そのためにも自分のドライブの回転を操作して相手のバック側(変化ラバー側)を狙い、カットの切れ味を把握しましょう。

切れたカットにこそスマッシュを打つというのは目から鱗だよね。

そしてこのスマッシュへ繋げるための様々な攻略法が紹介されているわけだが、男子にはミート打ちを使う選手がほとんどいないからこそ、軽部選手のスタイルはバツグンの効果を発揮するのであろうと思う。

ドライブ一辺倒でなかなかカットマンを攻略できない人は、この記事を参考にすれば、戦術の幅をグッと広げられるのではないだろうか。
ということで、こんな感じの1月号であった。

それにしても、今回の水谷選手の特集は内容が非常に深かった。おそらく後編も同じく濃厚なものとなっていると思われるが、ここまで来てしまうと、今後、ここからさらに深いところにある水谷隼の世界を引き出すことは容易ではなくなるだろう。

それを可能にするには、もう瀬戸内寂聴先生との対談しかないのではなかろうかと思う。

お二人が並んで卓球王国の表紙を飾っている姿が、私にははっきりと見える。

奇跡の対談の実現を、ワクワクしながら待ちわびたい。

 

 

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