先日ご紹介した書籍、『勝利のラケット (記録への挑戦)』から拾った興味深い雑学を、本日はつらつらっと書いてみようかと思う。
本書は、テニスラケットにストリング(糸)を張るストリンガーと、卓球のラケット職人の仕事を取材した本である。
卓球雑学と言いながらも、この本は半分はテニスの本なので、テニスの雑学も少しばかり紹介しようと思う。
卓球において、ラケットに貼るラバーは、その状態の良し悪しがプレーを左右するため、とても大切な存在なのだが、テニスにおけるストリングも、選手にとって極めて重要な役割を果たしている。
ストリングを「かたくはる」とボールは飛ばなくなるし、「やわらかくはる」とボールはよく飛ぶ。
腕力が強い男子選手は、ボールが飛びすぎないようにかたくはり、非力な女子選手はボールを飛ばすためにゆるくはるのが一般的な傾向。選手は、自分に最適の「はり」を追及する。
なぜならストリングは1打ごとに、少しずつだがはりたてのフレッシュな状態から変化してゆるんでいく。すると選手の微妙な感覚がずれていき、それがボールコースの何センチというズレにつながってしまう。もし試合前からストリングのはり具合が自分の要求どおりでなかったら……。それはその選手にとって、あらかじめ1セットを落としたところから試合をスタートするようなものである。
卓球のラバーも、スポンジの硬さや厚さによって、ボールの弾み具合をコントロールするよね。
ストリングの張り方へのこだわりはそれと非常に似ている!
テニスへの親近感が嫌でも湧くではないか(別に嫌ではないけど)。
ウィンブルドンで6度の優勝を記録しているスイスのロジャー・フェデラー選手。フェデラー選手もストリングへのこだわりが強い選手だ。
今テニス界で大流行しているのが、たて糸とよこ糸の種類をかえるハイブリッド仕様。性質のちがう糸をたてとよこにあむことで、自分好みの打球感を実現することができる。フェデラー選手はたて糸にやわらかいナチュラル、よこ糸にかたいポリエステルをミックスすることで、最高のプレイができることを発見した。
いつの時代もチャンピオンのテニスは究極のお手本。「フェデラー選手のように……」というリクエストによって、ハイブリッド仕様が世界中に広まったのだ。
テレビでフェデラー選手の試合を見たことがある人もいるだろう。注意深く見ていると、フェデラー選手がひんぱんにラケットをかえていることに気づくはずだ。フェデラー選手は、ボールが新しいものに交換されるたびに、新しいラケットにかえる。
1試合でかえる本数は最低でも3本以上。フェデラー選手はつねにフレッシュな状態に仕上げられたラケットを使いたいのだ。
本の発売は2010年なので、今の流行はわからないが、その時代のチャンピオンの使っている道具を使いたいとい気持ちになるのは、これまた卓球と同じである。
「〇〇モデル」というラケットはたくさんあるからね。
にしても、「ボールが新しいものに交換されるたびに、新しいラケットにかえる」というのは驚きだ。
卓球も球が割れてボールを交換することがよくあるけど、ラケットはよほどのトラブルがない限りスペアなんて使わないからね。
で、ここからは卓球に関しての話である。
卓球編で取り上げているラケット職人は、株式会社タマス「特注ラケット工房」の金井一磨さん。
金井さんの仕事はブレードやグリップをけずり出して、ラケットとして仕上げるまで。そのすべてを手作業で行っているという。
1ミリ、1グラム単位の繊細さが要求されるラケット作りの秘密とは?
ラケット工房の棚には膨大な量の「板」がストックされていて、その一枚一枚に〇〇選手モデルといったラベルがはってある。
この板こそタマスの財産。
ストックされている板は、すべて一流選手が実際に使ったものと同じ材料。一枚一枚の板がそこにストックされるまでに、開発過程から試合での栄冠まで、さまざまなストーリーがかくれているのだ。
ブレードとなる板には単板と合板がある。単板はヒノキの板。特注ラケット工房に在庫してある単板は、木曽の山々の北斜面で育ったヒノキだ。
「これは樹齢数百年の木曽ヒノキからとったものです。生育の悪い北斜面で育った木の成長はおそいのですが、そのぶん、木目がつまっています。これが最高の打球感をうむんです。マグロに例えれば青森の大間の本マグロ。それも大トロ。もちろん最高級品です」
最高級品の大トロを使って、熟練の職人が神の手で寿司を握る、というわけだね。
それほどの貴重品の材料をストックできているのは、老舗のタマスだからこそなのだ。
一方、現在主流となっているのは、何枚かの板をはり合わせた合板。
性質のちがう板を幾重にもはり合わせることで、強度が出る。さらにカーボン、アリレートなどの特殊素材を組み合わせることで、しなやかな打球感をうみ出すことができる。現在、世界のトップ選手が使っているのは、ほぼ100%合板タイプだ。
ラケット工房には、バタフライのラケットを使った何十人というトップ選手使用の板がストックしてあり、型紙も同様に何十人分とストックされている。
だからこそ「〇〇選手がオリンピックで勝ったときのラケットと同じものを」という注文に対応できるのだ。
ラケット作りの裏にはこんな秘密が隠されていたんだね(別に隠してはいない)。
普通に試合を観ているだけでは知ることの出来ない知識を得ると、その競技に俄然興味が湧いてくる。
私はこれまで、まともにテニスの試合を観たことがないのだが、今度大きな大会の放送があれば、がっつりたっぷり観ようと思っている。
その時はもちろん、ラケットに命を与え、選手とともに戦うストリンガーに想いを馳せながら――。
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